ART
ガラスの温室に巨大な植物が出現! マドリッドでペトリット・ハリライの個展が開催。
September 3, 2020 | Art | casabrutus.com | text_Tomoko Sakamoto
コソボ人アーティスト、ペトリット・ハリライのスペイン初となる個展が、マドリッドの〈ソフィア王妃芸術センター〉分館、レティーロ公園内にあるガラスの温室パヴィリオンで開催中。新型コロナウイルスにより休館していた同美術館にとって、再開後初の展覧会となる。
3月より新型コロナウイルスの影響によって世界中の美術館が一時閉館を余儀なくされて幾月、マドリッドの〈ソフィア王妃芸術センター〉が6月の再オープン後初となる展覧会を開催。レティーロ公園の中にある別館、クリスタル宮殿内におけるコソボ人アーティスト、ペトリット・ハリライの個展『カラスと嵐 未知の場所から愛し合う人間たちの匂いを再び取り戻す』という詩的なタイトルのインスタレーションだ。
2013年のヴェネツィアビエンナーレにコソボを代表するアーティストとして参加し、2017年にはNYの〈ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート〉で個展を行ったペトリット・ハリライ。彼が今回スペインで初めて個展を開催することができた意味は、いろいろな面で大きい。1986年生まれの彼は自国コソボでの戦争から難民として逃れ、イタリアでの生活を経て現在はベルリンに在住しているが、コソボという国は今も国連加盟国の半数におよぶ85カ国が承認を拒否しており、スペインはその「承認拒否国」のひとつでもあるからだ。
外界の木々が見え、自然光があふれるガラス張りの温室という特別な空間を最大限に利用して作られた「巣」とそれを彩る巨大で華やかな造花たち(これらの花の制作はスペイン人アーティストのアルヴァロ・ウルバノとのコラボレーションによる)。その甘美な美しさの裏には彼のさまざまな想いが投影、象徴されている。
2013年のヴェネツィアビエンナーレにコソボを代表するアーティストとして参加し、2017年にはNYの〈ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート〉で個展を行ったペトリット・ハリライ。彼が今回スペインで初めて個展を開催することができた意味は、いろいろな面で大きい。1986年生まれの彼は自国コソボでの戦争から難民として逃れ、イタリアでの生活を経て現在はベルリンに在住しているが、コソボという国は今も国連加盟国の半数におよぶ85カ国が承認を拒否しており、スペインはその「承認拒否国」のひとつでもあるからだ。
外界の木々が見え、自然光があふれるガラス張りの温室という特別な空間を最大限に利用して作られた「巣」とそれを彩る巨大で華やかな造花たち(これらの花の制作はスペイン人アーティストのアルヴァロ・ウルバノとのコラボレーションによる)。その甘美な美しさの裏には彼のさまざまな想いが投影、象徴されている。
その最も個人的なものは彼の家族の記憶で、それはパヴィリオンの中に佇む擬人化された白いカラスで表現されている。彼の祖父に初めて息子、すなわちハリライの父が生まれた時、感情を公であらわにすることを良しとしないコソボの風習に逆らわないよう、祖父は畑で太い枝を折れるほどに抱きしめてその喜びに耐えたという。鳥はいつも、ハリライにとって自由の、そして戦いと抵抗の象徴でもある。
そして同性愛者でもある彼は、コソボでは法的にも社会慣習的にも未だにそれが認められないことを前置きした上で、同性愛や同性婚が認められているこのスペインという国において、この空間を自分(たち)の願望、「ありのままの愛を祝福する場所」として表現する。極楽鳥の一種であるバウアーバーズと同じく求愛のために華やかな花で彩られた巣は、人々を公園に住む本物の鳥たちとともに誘い招き入れる秘密の楽園なのだ。
約2年という準備期間の間にコロナ渦が広がり、このインスタレーションも開始前に中断してしまった。新しい日常の中で、注意深く再び開いたこの別館を訪れた者には、この隔離された温室という存在自体がコロナによって露呈した世界の脆弱さの象徴にも見えるだろう。このクリスタル宮殿(あるいは新しい日常における美術館)は、ハリライがそう信じるように、あらゆる国の、いかなる信条を持つ人々をも受け入れたいと願う、儚くて尊い出会いの場所、すなわちパブリックスペースのあるべき姿を問いかけるものなのだから。
そして同性愛者でもある彼は、コソボでは法的にも社会慣習的にも未だにそれが認められないことを前置きした上で、同性愛や同性婚が認められているこのスペインという国において、この空間を自分(たち)の願望、「ありのままの愛を祝福する場所」として表現する。極楽鳥の一種であるバウアーバーズと同じく求愛のために華やかな花で彩られた巣は、人々を公園に住む本物の鳥たちとともに誘い招き入れる秘密の楽園なのだ。
約2年という準備期間の間にコロナ渦が広がり、このインスタレーションも開始前に中断してしまった。新しい日常の中で、注意深く再び開いたこの別館を訪れた者には、この隔離された温室という存在自体がコロナによって露呈した世界の脆弱さの象徴にも見えるだろう。このクリスタル宮殿(あるいは新しい日常における美術館)は、ハリライがそう信じるように、あらゆる国の、いかなる信条を持つ人々をも受け入れたいと願う、儚くて尊い出会いの場所、すなわちパブリックスペースのあるべき姿を問いかけるものなのだから。
『カラスと嵐 未知の場所から愛し合う人間たちの匂いを再び取り戻す』
〈ソフィア王妃芸術センター〉分館 クリスタル宮殿内
PaseoRepública de Cuba, 428009. TEL(+34)91 774 10 00。〜2021年2月28日。10時〜22時(10月は〜21時、11月〜3月は〜18時)。無休(雨天休業の場合あり)。入場無料。