CULTURE
人のモノへの愛着が絵本の中で大活躍。川村元気の絵本『ムーム』。
| Culture | a wall newspaper | photo: Junpei Kato text: Sawako Akune
川村元気による絵本『ムーム』。長く読み継がれていく一冊ができました。
本誌で連載した『ティニー ふうせんいぬ の ものがたり』で、初めて絵本というジャンルに挑んだ川村元気。このたび発表する2作目『ムーム』は、前作とはまったく異なるプロセスで出来上がったものだという。グラフィックデザイナー佐野研二郎と綿密なやりとりを繰り返しながら作り上げた『ティニー』に対し、『ムーム』の始まりには、ある作品との出会いがあったと振り返る。
「アーティストの益子悠紀さんの、電車やバス、空き缶……と、いろんなモノから、パン生地のような塊がむにゅっとはみ出しているスケッチを見たんです。その絵と、僕がずっと昔から抱いていた“違和感”とが、ガチャンとくっつくような感覚がありました」
その“違和感”とは、財布を新調し、中身を新しい財布に移してから古い財布を見ると、空っぽになったその財布が“死んでしまった”ように見える、というもの。
「益子さんの絵の、その謎のパン生地のような塊は、モノと持ち主の間にある思い出がモンスターになった姿なんじゃないかと。そこからストーリーが一気に広がって、ほぼひと晩で書き上げました」
愛着を持っていたモノとの別れ。似たような経験には、誰もが思い当たるのではないか。自分の仕事は常に「大勢が共有する思い出や意識の、まだ見つけられていなかった部分を掘り出してアウトプットすること」だと川村。だからこそ、今回のストーリーも、多くの人の心をつかむものになった。
作中では、そのモンスターたる“ムーム”が、さまざまな出会いや別れを経験。そもそもの端緒を作った益子による絵ともあいまって、一度見たら心から離れない強さのあるキャラクターが誕生している。
「前作『ティニー』は絵本としてはかなり挑戦的な一冊。一方で、僕自身はレオ・レオーニやエリック・カール、佐野洋子さんといった作家の絵本に大きな影響を受けて育ってきたので、そういった絵本の古典性に向き合いたいという思いもあったんです」
人の奥深くへ届くストーリーと絵が出会った『ムーム』。何年もののち、絵本の“古典”となる可能性を秘めた一冊だ。
「アーティストの益子悠紀さんの、電車やバス、空き缶……と、いろんなモノから、パン生地のような塊がむにゅっとはみ出しているスケッチを見たんです。その絵と、僕がずっと昔から抱いていた“違和感”とが、ガチャンとくっつくような感覚がありました」
その“違和感”とは、財布を新調し、中身を新しい財布に移してから古い財布を見ると、空っぽになったその財布が“死んでしまった”ように見える、というもの。
「益子さんの絵の、その謎のパン生地のような塊は、モノと持ち主の間にある思い出がモンスターになった姿なんじゃないかと。そこからストーリーが一気に広がって、ほぼひと晩で書き上げました」
愛着を持っていたモノとの別れ。似たような経験には、誰もが思い当たるのではないか。自分の仕事は常に「大勢が共有する思い出や意識の、まだ見つけられていなかった部分を掘り出してアウトプットすること」だと川村。だからこそ、今回のストーリーも、多くの人の心をつかむものになった。
作中では、そのモンスターたる“ムーム”が、さまざまな出会いや別れを経験。そもそもの端緒を作った益子による絵ともあいまって、一度見たら心から離れない強さのあるキャラクターが誕生している。
「前作『ティニー』は絵本としてはかなり挑戦的な一冊。一方で、僕自身はレオ・レオーニやエリック・カール、佐野洋子さんといった作家の絵本に大きな影響を受けて育ってきたので、そういった絵本の古典性に向き合いたいという思いもあったんです」
人の奥深くへ届くストーリーと絵が出会った『ムーム』。何年もののち、絵本の“古典”となる可能性を秘めた一冊だ。
かわむらげんき
1979年生まれ。東宝株式会社映画企画部プロデューサー。『告白』『悪人』『モテキ』などの映画を製作し、2011年「藤本賞」を史上最年少受賞。12年に初の小説『世界から猫が消えたなら』を上梓。

『ムーム』
かわむらげんき作、ましこゆうき絵。熊のような雲のような生き物ムーム。湖から引き揚げたがらくたから、持ち主との思い出の塊を引っ張り出しては空へ送り出す日々を送るが…。白泉社/1,400円。
