ART
全貌を公開! ウェス・アンダーソンが手がけた美術展
『カーサ ブルータス』2019年1月号より
December 10, 2018 | Art | a wall newspaper | photo_KHM-Museumsverband text_Yuka Uchida translation_Aya Takatsu
400万点の収蔵品を独自のインスピレーションで選定!歴史観や美術史的価値観を軽やかに飛び越えた展覧会です。
ウィーン美術史美術館で、映画監督のウェス・アンダーソンとパートナーのジューマン・マルーフがキュレーションした展覧会が始まった。タイトルの和訳は『棺の中のトガリネズミのミイラと、そのほかの秘宝』。彼の映画を彷彿とさせる世界観だ。二人が2年間かけて向き合ったのは400万点の収蔵品。選び出した423点のうち、実に半数以上が収蔵庫の奥に眠っていた作品だという。
「私たちの願いは、今までちゃんと見るには暗すぎた場所に、いくらかの光を当てること」と二人。
展示方法も独特で、例えば17世紀のエメラルドの小壺の背後には、20世紀に上演された戯曲『ヘッダ・ガブラー』の舞台衣装を飾り、「あの六角形の結晶とシルクのドレスの間にある分子レベルの類似性を際立たせたかった」とウェス。他にもカツラを納めるスペイン製の箱と、イタリアの国王が王冠をしまう箱を並べるなど、美術史の価値にとらわれない構成に、鑑賞者の固定観念も打ち砕かれていく。
こうしたゲストキュレーターによる企画展は、同美術館で6年前にスタート。初回はエド・ルシェ、次はエドモンド・ドゥ・ヴァール、そして今回がウェスたちだ。そもそもキュレーターに芸術家を迎える動きは1969〜70年にアメリカを巡回した『Raid the Icebox 1 with Andy Warhol』展が始まり。そう、ウォーホルがきっかけなのだ。同美術館もこの事実から企画を立ち上げたという。
アーティストの感性で再構築された新しい美術史。同展は来年、ミラノのプラダ財団にも巡回。近く完成する展覧会図録も楽しみだ。
『SPITZMAUS MUMMY IN A COFFIN AND OTHER TREASURES』展
〈ウィーン美術史美術館〉Maria Theresien Platz, 1010 Wien TEL (43)1 525 240。〜2019年4月28日。10時〜18時(木〜21時)。無休。入館料15ユーロ。
ウェス・アンダーソン 映画監督。アメリカ・テキサス州生まれ。作品に『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ダージリン急行』『グランド・ブダペスト・ホテル』『犬ヶ島』など。
ジューマン・マルーフ イラストレーター。レバノン生まれ、ロンドン育ち。ウェスの公私にわたるパートナーで映画の衣装デザイン等を担当。小説『The Trilogy of Two』も話題。