〈光の教会〉の「光」は、なぜ美しいのか。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook-a facebook instagram line twitter youtube

〈光の教会〉の「光」は、なぜ美しいのか。

『カーサ ブルータス』2017年11月号より

『安藤忠雄展-挑戦-』で再現された〈光の教会〉。実感できるのは、十字架から入り込む光の美しさです。この光には、28年越しの挑戦が込められています。

〈国立新美術館〉の野外展示場に実物大で再現された〈光の教会〉。十字架にガラスをはめていない点のみ実物と大きく違う。
質感を実物に近づけるため実験を繰り返したという工場生産の4cm厚のコンクリートパネルで仕上げている。実物同様、床、家具も足場板で。
〈国立新美術館〉の野外展示場に実物大で再現された〈光の教会〉。十字架にガラスをはめていない点のみ実物と大きく違う。
質感を実物に近づけるため実験を繰り返したという工場生産の4cm厚のコンクリートパネルで仕上げている。実物同様、床、家具も足場板で。
3500万円。1989年に竣工した〈光の教会〉の総工費である。後に安藤忠雄の代表作となるその建物は、一般的な住宅と大差ないコストで実現された。

〈光の教会〉は、18×6×6mのコンクリートの直方体を基本とする建物だ。正面に十字架が切られ、斜めの壁が立てられているだけの、単純明快な形をしている。だが十字架から漏れる光が室内を満たす様子は実に劇的。十字架を物ではなく光で表すという発明は、教会建築の概念を変えた。

厳しい予算の下、安藤は光の十字架の演出にこだわり抜いた。建物の形はシンプル。ならば工事も簡単かというと大間違い。壁に切られた十字架の上半分、計10トンに及ぶ壁は、天井から吊り下げなくてはならない。そのためにはコンクリートに比べて高額な鉄筋を大量に必要とする。工事費を下げるため建設会社は、壁の一部に柱の役割をもたせて鉄筋量を減らすべく、光の十字架の腕を短くする提案をしたという。しかし安藤は譲らず、コストダウンは他の部分で行った。この建築の核は光の十字架にあり、十字架は壁の両端部まで切れ込んでいるべきだと考えたからだ。
足場板にオイルステン塗装の床が、アプローチ越しの光を受けて鈍く光る。背後の椅子は同時期に建てられた〈六甲の教会〉のためにデザインしたオリジナル。
足場板にオイルステン塗装の床が、アプローチ越しの光を受けて鈍く光る。背後の椅子は同時期に建てられた〈六甲の教会〉のためにデザインしたオリジナル。
光を美しく見せるためには素材も重要だ。固めに調合された生コンクリートを用い、1800×900mmのパネルに6個の丸い穴が均等に並ぶ、ANDO建築に共通する美しいコンクリートの壁が打たれた。床および家具にはコンクリートの質感に合わせ、作業現場に使われる足場板が使われた。一般的な家具材料からかけ離れた荒々しい質感の素材を使うことに教会や家具業者は難色を示したが、光をにじませる床や家具ができ、空間の荘厳さは増した。

安藤が唯一折れたのが、正面の十字架にガラスを入れることだった。「ガラスがなければ、光が直接、より力強く入り、さらに緊張感のある教会になる」と安藤は考えていた。だが雨が入るし、冬は寒い。凍死すらしかねないと教会から激しい、しかしもっともな抵抗に遭い、やむなく納得した。

しかし安藤は諦めていなかった。『安藤忠雄展-挑戦-』のために〈光の教会〉が1/1のサイズで〈国立新美術館〉の敷地に再現され、構想から28年越しの「ガラスなしの光の十字架」が実現されたのだ。〈住吉の長屋〉など数々の安藤作品を手がけた、まこと建設が施工。安藤忠雄建築研究所の担当スタッフは、かつて〈光の教会〉を手がけた水谷孝明。ANDO建築を知り尽くしたチームが実現をサポートし、素材感まで再現された。限りなく実物に近く、より力強く光が抜ける〈光の教会〉、この機会にぜひ体感してほしい。
ガラスがはまっていない十字架や斜めの壁の隙間から力強い光が差し込んで、ディテールや質感まで再現されたコンクリートの壁に陰影ができる。
ガラスがはまっていない十字架や斜めの壁の隙間から力強い光が差し込んで、ディテールや質感まで再現されたコンクリートの壁に陰影ができる。
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光の教会

1989年竣工。大阪府茨木市の住宅地に建つ教会。コンクリートの箱に切られた光の十字架が信仰の場を象徴する。その後も安藤の設計で日曜学校が99年、牧師館が2010年に竣工。また教会の床のオイルステインの塗り替えも重ねられ、手が加えられ続けている。写真は『安藤忠雄展-挑戦-』で〈国立新美術館〉の野外展示場に再現されたもの。