DESIGN
エンツォ・マーリの器が勢揃いした工芸館へ。
June 12, 2019 | Design | casabrutus.com | photo_Shin-ichi Yokoyama text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
〈東京国立近代美術館工芸館〉でエンツォ・マーリの器《SAMOS》シリーズが30年ぶりにお蔵出し! 全シリーズが一度に並ぶ貴重な機会です。この愛らしい器に彼が込めた思いと合わせてじっくりと鑑賞しましょう。
展示ケースの中に一列に並ぶ白いボウル。イタリアのデザイナー、エンツォ・マーリが1973年にダネーゼ社のためにデザインしたものだ。創業者であるダネーゼ夫妻が運営していた時期のことである。日本では1980年に〈イタリア文化会館〉で初めて公式に発表され、全点が〈東京国立近代美術館工芸館〉に寄贈、新収蔵作品の展示で公開された。しかし、その後は数点ずつの展示はあったものの、すべてが一度に並ぶ機会はなく、今回は実に約30年ぶりにシリーズ21点が勢揃いする貴重な機会になる。
通常、大量生産の磁器は「鋳込み成形」という方法で作られることが多い。溶かした磁土を型に流し込み、固めてから焼く、というものだ。これなら同じ形のものを効率よく作れる。その他に、長い伝統で培われてきた手法の一つにろくろによる手仕事がある。マーリはあえて、原始的な「ひもづくり」を選んだ。手で紐状にした土を、ヘビがとぐろを巻くように積み上げていくというものだ。これは陶芸の基本と言われるが、ひとつ作るのに時間はかかる。
エンツォ・マーリの《SAMOSシリーズ》は、この中の「ひもづくり」に近い製法で作られる。棒状や板状のパーツを作り、それをつなぎ合わせていくのだ。まるで縄文土器のように原始的な作り方で、量産は可能だが一度に大量生産はできない。機械生産ではないから、よく見ると職人の手の癖によって微妙に違う仕上がりなのがわかる。見る角度を少し変えるだけで見え方が変わる。シンプルな製法なのに複雑な形を内包している。
「エンツォ・マーリはあえてこんな非効率な製法により、作るという行為に向き合おうとしたのだと思います」と展覧会を担当した学芸員の野見山桜さんはいう。
「エンツォ・マーリはあえてこんな非効率な製法により、作るという行為に向き合おうとしたのだと思います」と展覧会を担当した学芸員の野見山桜さんはいう。
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