ほしよりこが映像化した、エド・シーランの原風景。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ほしよりこが映像化した、エド・シーランの原風景。

エド・シーランの3rdアルバム『÷(ディバイド)』収録曲「スーパーマーケット・フラワーズ」のアニメーションビデオが話題になっている。手がけたのは本誌連載『カーサの猫村さん』でおなじみの漫画家ほしよりこ。本格的なアニメーションへの初挑戦を、独占インタビューで振り返った。

──アニメーションビデオ制作のオファーを受けたときは、どう思われましたか?

エド・シーランのことは好きだったので、もちろん嬉しかったです。私は、グラミー賞の授賞式の中継をWOWOWで観るのが好きなんですが、ここ数年エド・シーランを毎年見ていて音楽の良さはもちろん、すごくいい人だなと、パーソナリティに注目していました。ただ、アニメーションを自分で手がけるのは初めてでしたし、エドはあまりに遠い存在で、何を描いたらいいのかなど、最初はわからないことだらけでした。

──どのようにしてイメージを決めていったのですか?

昨年4月に初めて、武道館でエドのライブを観せていただきました。舞台にただ一人、Tシャツにジーンズ姿で、楽器もギターとループペダルだけの、全く飾らないステージ。とてもリラックスしていて、会場には大勢のお客さんがいるのに、まるで路上で聴いているかのような親密さがありました。私はそれまで、ポップやロックの歌手だと思っていたけれど、ケルト色を強く感じて、そこをもっと掘り下げたいなと思ったんです。彼のルーツ的なことを見てから描きたいというのと、なにか一つ、自分の目で見たモチーフがほしかった。そこで、エドの生まれたロンドンのサホックや、彼がしばしば歌にしている、おばあちゃんのルーツでもあるアイルランドを秋に一人で見て回りました。

──エドや、彼の飼い猫には会ったのですか?

完成するまでは会わないほうがいいと思って、お会いしませんでした。猫のカリッポやドリーはInstagramを見ながら描きました。
ほしさん自身が選んだ、特に印象深いシーンの原画。まずは水彩画のような風景から。
ほしさん自身が選んだ、特に印象深いシーンの原画。まずは水彩画のような風景から。
──現地へ実際に行ってみていかがでしたか?

アイルランドは、端に行けばきっと特徴的なことがわかるだろうと、イニュシュモアアイランドというところに行ったのですが、40℃の猛暑のロンドンに対して、凍える寒さ(笑)。ロンドンのホテルにダウンコートを置いてきたことを後悔しました。何もなくて、ただただ厳しく広大な自然が広がっている、とてもプリミティブなところでした。MVの後半、カラーでパノラマのように見せている、鳥が飛んでいる場面はイニュシュモアアイランドで見た風景です。

──アニメーションはどのようにして作っていったのでしょうか?

まず、私がコンテとなる漫画を描き、そこからアニメーターのみなさんがコマを割ってくださいました。そのコマをトレースしながら、自分の絵として清書していく作業を繰り返したんです。合計600枚くらい描いたと思います。普通のアニメーションは1秒24枚のところを3枚に落としているので、かなりガタガタ(笑)。今回、静止画とアニメーションが全く別の領域なのだということを痛感しました。最初、草が風にゆれる場面などは自分なりにコマを描いてみたのですが、それを動かしてみると、不自然で気持ち悪いんです(笑)。人間も動物も植物も、実は思わぬ動きをしている。アニメーターの方はそれを見逃さずにきちんと割ってくださったんですね。自分が普段、見たものを脳内で勝手に編集して、「点」でしか認識していなかったことに気づかされました。