CULTURE
【本と名言365】エンツォ・マーリ|「制作し、建設し、プロジェクトする…」
November 9, 2023 | Culture | casabrutus.com | photo_Miyu Yasuda text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。家具やプロダクト、絵本など多岐に渡りデザイン活動を行うイタリアの巨匠、エンツォ・マーリ。デザインという言葉が使われる前からものづくりに取り組み、プロジェクトとかたちについて思考を深めた巨匠による哲学とは。
制作し、建設し、プロジェクトする私たちの能力はすべて、手、しだいである。
イタリアデザイン界の巨匠エンツォ・マーリ。美術を学んでいた1950年代にデザインの世界に足を踏み入れ、1958年にブルーノ・ムナーリの紹介で〈ダネーゼ〉とのコラボレーションを開始し数々のプロダクトや知育玩具を生み出した。その後、ドリアデやマジス、ザノッタ、アルテミデなど一流メーカーと組んで作品を発表した。晩年には、無印良品や飛騨産業、アウラ等の日本企業とのコラボレーションも多く、マーリの名前はもとより作品に見覚えがある方も少なくはないだろう。
マーリはさまざまなプロジェクトの実践と並行して、大学で教鞭を執り、知覚心理学や三次元空間での知覚について研究を続けてきた。彼のデザイン哲学と実践の集大成となる主著が本書『プロジェクトとパッション』である。
彼は、本書の中でものづくりの一連の流れを「プロジェクト(progetto)」と呼び、それに携わるプロフェッショナルな存在を「プロジェッティスタ(progettista)」と呼ぶ。プロジェクトとは、デザインという言葉が生み出される前から存在した概念だという。
「優れたプロジェクト」とは、包括的にプロジェクトをとらえようとする思考であるとマーリは述べる。デザイナーがものの機能性に少しばかり影響を与えても、それはたいして重要なことではなく、「生産上のプロセスにおいて人々が取り結ぶ、社会的なさまざまな関係のクオリティに影響を与えることにこそ『優れたプロジェクト』の本来の目的がある」。そして、優れたプロジェクトは「ユートピア」を育むのだという。
ユートピアという言葉が出てくると、単なる机上の空論のように思えるかもしれないがそうではない。プロジェッティスタは「ユートピアと現実という二つの世界を同時に意識しながら仕事を進めることが必要」だと述べる。
「制作し、建設し、プロジェクトする私たちの能力はすべて、手、しだいである。」という言葉は、本書の最終章となる「学生へのいくつかの助言」で記されたものだ。プロジェクトとは「予測して組織する」ことであり、「手は、思考を直接的に、あるいはそれらのモデルを間接的に実現」する。工業機械の原形となった道具たちの原形はすべて手で扱うものであり、ものづくりというのは「『手』そのもののなかに、マテリアルとプロジェクトの本質が内包されている」とし、道具の活用を訓練することの重要性を説く。
彼が語るプロジェクト(デザイン)論の言葉は、決して平易ではない。工業化が進み、仕事は細分化され、人々の欲望は膨らみ、消費社会は加速する──そんな時代のものづくりは人や社会と複雑に絡み合っているからだ。この本を携えて、次世代の多様なプロジェッティスタたちが様々な議論を交わすことを、きっとマーリは期待しているのだろう。
イタリアデザイン界の巨匠エンツォ・マーリ。美術を学んでいた1950年代にデザインの世界に足を踏み入れ、1958年にブルーノ・ムナーリの紹介で〈ダネーゼ〉とのコラボレーションを開始し数々のプロダクトや知育玩具を生み出した。その後、ドリアデやマジス、ザノッタ、アルテミデなど一流メーカーと組んで作品を発表した。晩年には、無印良品や飛騨産業、アウラ等の日本企業とのコラボレーションも多く、マーリの名前はもとより作品に見覚えがある方も少なくはないだろう。
マーリはさまざまなプロジェクトの実践と並行して、大学で教鞭を執り、知覚心理学や三次元空間での知覚について研究を続けてきた。彼のデザイン哲学と実践の集大成となる主著が本書『プロジェクトとパッション』である。
彼は、本書の中でものづくりの一連の流れを「プロジェクト(progetto)」と呼び、それに携わるプロフェッショナルな存在を「プロジェッティスタ(progettista)」と呼ぶ。プロジェクトとは、デザインという言葉が生み出される前から存在した概念だという。
「優れたプロジェクト」とは、包括的にプロジェクトをとらえようとする思考であるとマーリは述べる。デザイナーがものの機能性に少しばかり影響を与えても、それはたいして重要なことではなく、「生産上のプロセスにおいて人々が取り結ぶ、社会的なさまざまな関係のクオリティに影響を与えることにこそ『優れたプロジェクト』の本来の目的がある」。そして、優れたプロジェクトは「ユートピア」を育むのだという。
ユートピアという言葉が出てくると、単なる机上の空論のように思えるかもしれないがそうではない。プロジェッティスタは「ユートピアと現実という二つの世界を同時に意識しながら仕事を進めることが必要」だと述べる。
「制作し、建設し、プロジェクトする私たちの能力はすべて、手、しだいである。」という言葉は、本書の最終章となる「学生へのいくつかの助言」で記されたものだ。プロジェクトとは「予測して組織する」ことであり、「手は、思考を直接的に、あるいはそれらのモデルを間接的に実現」する。工業機械の原形となった道具たちの原形はすべて手で扱うものであり、ものづくりというのは「『手』そのもののなかに、マテリアルとプロジェクトの本質が内包されている」とし、道具の活用を訓練することの重要性を説く。
彼が語るプロジェクト(デザイン)論の言葉は、決して平易ではない。工業化が進み、仕事は細分化され、人々の欲望は膨らみ、消費社会は加速する──そんな時代のものづくりは人や社会と複雑に絡み合っているからだ。この本を携えて、次世代の多様なプロジェッティスタたちが様々な議論を交わすことを、きっとマーリは期待しているのだろう。
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