ART
内藤礼が作り出す“生”の内と外。|青野尚子の今週末見るべきアート
August 10, 2018 | Art | casabrutus.com | photo_Manami Takahashi text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
ビーズ、糸、布、そして水や風。そんなひそやかなオブジェで空間を満たしていく内藤礼のアート。〈水戸芸術館〉で開催中の4年ぶりの大型個展では、ギャラリーが丸ごと一つの作品となって観客を迎えます。内藤礼に話を聞きました。
内藤礼は古民家など古い歴史を持つ建物から近現代建築まで、場をていねいに読み取り、作品にしてきた。瀬戸内海の豊島にある〈豊島美術館〉では西沢立衛と協働、大きな水滴のような建物の中に風と水が流れるアートをつくっている。4年前の個展はアールデコの意匠が美しい〈東京都庭園美術館〉で、近年、彼女が制作している小さな《ひと》を中心にしたものだった。
今回の会場になった〈水戸芸術館〉は磯崎新の設計によるものだ。この空間で内藤はどんなものを作ったのだろう? 期待に胸を膨らませながら最初の展示室に入ると、そこには小さな光の粒が浮いている。糸で結ばれたガラスのビーズが浮かんでいるのだ。よく見ると、そのうちの2つは小さな鈴だ。わずかな風に揺れて音をたてることもある。先へ進むと空中に浮かんだ小さな水路や鏡、水が入ったガラス瓶、人形、風船、かすかに描画された絵などが現れる。
この美術館はプロポーションの違う5つの展示室が直線上に並ぶ、という空間構成が特徴だ。1、3、5つめの展示室には天窓から自然光が入る。それ以外の2、4つ目の展示室と、この5つの展示室の脇を通路のようにつなぐ6室、さらに6室から1室とは反対の方向に向かうと現れる7室には天窓はない。
内藤はこの美術館の全室で人工照明を使わず、自然光のみで作品を見せることにした。天窓のない展示室には、隣の部屋の天窓から光が回る。日が沈むと真っ暗になってしまうから、9月からは閉館時間が1時間繰り上がる。
「2001年に直島で《きんざ》という、自然光を受け入れる作品を作ったのですが、そのときに太陽の光とそれを受けとる人間について考えるようになりました。太陽の光という、私たちが受けとっているものがあらかじめあって、あとから私たちが生まれてくる。ここでは天窓から光が入る1、3、5室と、そこからの光が届こうとする、行き渡ろうとする展示室とがあります。暗いところにもかすかに光が届いている。〈水戸芸術館〉のギャラリー空間はそのことがくっきりと感じられる場所だと思いました」
「明るい地上には あなたの姿が見える」という展覧会のタイトルには「太陽から無際限の光が私たちに与えられている、その明るい地上にあなたは生きている」という思いが込められている。
「明るい地上には あなたの姿が見える」という展覧会のタイトルには「太陽から無際限の光が私たちに与えられている、その明るい地上にあなたは生きている」という思いが込められている。
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illustration Yoshifumi Takeda
青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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