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ARCHITECTURE

モダニズム建築の名作〈寒河江市庁舎〉を見に|行くぜ、東北。

| Architecture, Art | sponsored | photo_Tetsuya Ito   text_Aki Kikuchi   editor_Yuka Uchida, Akio Mitomi

若かりし黒川紀章が、岡本太郎や地元の〈天童木工〉とコラボレーションしながら生み出した〈寒河江市庁舎〉。ユニークなシルエットは行政のあり方をも表現しています。

吹き抜けから見下ろした「市民ホール」。住民票や年金など生活の手続きを営む頭上で、岡本太郎による光の彫刻《生誕》が市民を照らすシュールな光景。床のモザイクタイルも当時のまま。
吹き抜けから見下ろした「市民ホール」。住民票や年金など生活の手続きを営む頭上で、岡本太郎による光の彫刻《生誕》が市民を照らすシュールな光景。床のモザイクタイルも当時のまま。
縦横無尽に〝ツノ〟を延ばし、光を放つ彫刻。その下には杖をついた老婦人。作業着姿の青年。財布片手のOL。地方都市の日常に岡本太郎の芸術が交錯するその風景には不思議な温もりがあった。

1967年に建てられた〈寒河江市庁舎〉を手がけたのは若かりし黒川紀章。竣工当時はまだ33歳である。64年に寒河江の企業、日東食品(現・日東ベスト)が自社工場の設計を黒川に依頼。それをきっかけに「従来の役所イメージを打ち破る市庁舎を」と願う地元行政から白羽の矢が立った。
「市民ホール」から見た吹き抜け。「建物の直線に〝ツノ〟の曲線で対抗させ、産みの苦しみとエネルギーを表現した」と岡本の言葉。
「市民ホール」から見た吹き抜け。「建物の直線に〝ツノ〟の曲線で対抗させ、産みの苦しみとエネルギーを表現した」と岡本の言葉。
来庁者はゆるやかなスロープを上り、2階から館内に入る。冒頭で紹介したのはここ、窓口業務を行う「市民ホール」だ。四方を窓で囲まれているうえ、5階まで吹き抜ける天井は全面がトップライト。東北特有の曇天でも室内は驚くほど明るく、光に満ちている。

成長する生命の文脈で建築を捉えるメタボリズム。旗手のひとりである黒川は、この吹き抜け空間を母の胎内になぞらえ、建築という母体に自然(光や空気)が宿る場所=建物の〝胎内化〟と呼んだ。そんな象徴的な場所に、岡本の彫像《生誕》を置いた理由は明らかではない。公共建築物を初めて手がけた若い建築家が、当時すでに名声を博していた鬼才に向けた、素直な尊敬の念であるのだろうか。
市職員席のアームチェア。約50年の歳月を経た風格を感じる。机や椅子など、議場家具は〈天童木工〉が手がけた。
市職員席のアームチェア。約50年の歳月を経た風格を感じる。机や椅子など、議場家具は〈天童木工〉が手がけた。
黒川紀章の若き日を想う見どころはまだある。ホール真下にあたる1階、市議会の議場にある家具はお隣の天童市に本社を置く〈天童木工〉の作。自身で家具をデザインするのではなく、同社の代表作を柔軟に採用し、初めてながら息の合ったコラボレーションを見せた。モダンで洗練された議会空間は、50年近くたった今も凜とした面持ちを保っている。

また黒川は、この建築で行政のあり方をも表現している。宙に浮く箱のような印象を与える3階〜5階は、4本のコアを使った吊り構造によるもの。市民の入口はあえて2階とし、3階以上を執務棟、それらを支える1階に議会を置いた。この空間ヒエラルキーには「市民の足下を立法が支え、行政が市民の頭上を守る」というメッセージが込められている。
市庁舎正面。上部4本のコアシャフトから、3階〜5階部分を吊り下げる構造。
市庁舎正面。上部4本のコアシャフトから、3階〜5階部分を吊り下げる構造。
当時の図面には、庁舎の完成後も続く都市計画が残っている。隣地に図書館を含む市民会館を建設し、庁舎2階とペデストリアンデッキで連結。実現こそしなかったが都市の発展に伴い建物が増殖していくメタボリズム的アイデアだ。

若き黒川紀章が大いなる一歩を踏み出した布石となる建築。山形まで足を運ぶ価値は十分ある。
岡本の作と言われている正面玄関の取っ手。
岡本の作と言われている正面玄関の取っ手。

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