ART
神戸に潜む亡霊たちを探す芸術祭へ|青野尚子の今週末見るべきアート
September 23, 2019 | Art | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
特に変わったところもなさそうな街の中で、建物や部屋を丸ごとアートにした空間に潜入する。海の上から野外劇を見る。そんな超個性的なアート・プロジェクトが神戸で始まりました。かなり強烈な体験ができるアートです。
『アート・プロジェクトKOBE 2019:TRANS-』と名付けられた本イベントに参加するアーティストは2人だけ。ドイツ出身のグレゴール・シュナイダーと地元、神戸出身のやなぎみわだ。美術作品の発表と野外劇を並行させているやなぎは、今回、ステージトレーラーによる《日輪の翼》の上演を3日間だけ行うため、期間内にアートとして楽しめるのはシュナイダーの作品のみ。まるで彼の個展のような感じになる。
シュナイダーはドイツの地方都市・ライトの出身。16歳の頃から自宅を改修してアート作品にする「u r」というシリーズを始めた。家具や小物までまったく同じ部屋のある双子のような家をつくる、コーヒーを飲む間に部屋が一回転して元に戻る、人が気づかないほどの速度で上下する天井のある部屋といった作品だ。2001年の『ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』ではドイツ館の中に「u r」を再現、まるごと廃墟のような空間に変えてしまった。2014年の『横浜トリエンナーレ』では美術館の窓のない小部屋の床一面に泥を敷き詰めるといった作品を発表している。
今回の作品《美術館の終焉—12の道行き》は部屋ひとつ、あるいは建物一軒といったスケールではなく、およそ3キロ四方程度のエリアに広がる大作だ。観客は点々と配置された「留」という12のスポットを巡りながら、彼が作り出した空間と時間のアートに入り込んでいくことになる。
「これまでは家の中の空間だったけれど、それをさらに街に広げた。僕にとっては大きなチャレンジだった」とシュナイダーは言う。
「これまでは家の中の空間だったけれど、それをさらに街に広げた。僕にとっては大きなチャレンジだった」とシュナイダーは言う。
神戸ハーバーランドの玄関口に位置する「デュオドーム」に設置された第1・2留はいわばプロローグだ。第1留《死にゆくこと、生きながらえること》ではお年寄りが体の3Dスキャンをされている。第2留《ドッペルゲンガー》ではスクリーンの向こうとこちらで同じ動作をする人が。鏡のようだが、背景は別の場所だ。いったいどういうことなのか? その謎は「12の道行き」の最後で明かされる。そこまではたたみかけるように、何かの暗部をのぞき込むような気持ちになる作品が続く。
Loading...
illustration Yoshifumi Takeda
青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
Loading...