ARCHITECTURE
【大分・由布市/別府市】隈研吾による棚田を臨む温泉宿と太宰治の〈碧雲荘〉へ|甲斐みのりの建築半日散歩
November 18, 2022 | Architecture, Culture, Food, Travel | casabrutus.com | photo_Ryumon Kagioka text_Minori Kai
温泉源泉数・湧出量ともに隣接する別府に次いで全国2位を誇り、大正時代より別府の奥座敷として栄えてきた大分県由布市湯布院町。自然豊かな山間部に落ち着いた雰囲気の温泉郷が広がり、「東の軽井沢、西の由布院」と称されるほど。そんな由布院に2022年8月に誕生したのが、星野リゾートの温泉ブランド「界」の20施設目となる〈界 由布院〉。隈研吾氏が棚田のランドスケープを主役に設計した宿でくつろぎ、由布院から別府まで周辺を巡った。
●四季折々の棚田の景色に憩う〈界 由布院〉。
東側に雄麗な由布岳、北側は鳥が飛び交うくぬぎ林、南側は朝霧に包まれる谷と自然に囲まれ、寄棟(よせむね)屋根の平屋の離れと客室棟、周囲の自然に馴染むパブリック棟や温泉棟が、ゆったりとしたリズムを刻む棚田を中心に配される〈界 由布院〉。「棚田暦で憩う宿」をコンセプトに、50年ほど前に使われていた棚田の一部を再生して新たなデザインを加え、農村としての原風景を甦らせた。
「上質な農家風の奥座敷」をキーワードに、田園風景や四季の美しさを間近に感じる建築設計を手がけたのは、建築家・隈研吾氏。農家を構成する「たたき」「板間」「座敷」をイメージした内装には、稲や藁など棚田にちなんだ素材や、竹、日田杉、畳表の材料となり国東半島の七島藺(しちとうい)など、大分県の素材がふんだんに使われている。
農家の玄関「たたき」を象徴するのはフロントロビー。その先にある「板間」の空間は竹のフローリングを用いたトラベルライブラリー。縁側を思わせるデッキで座椅子に腰かけて宿の中心にある棚田を一望できるパブリックスペース「棚田テラス」は屋外ながら「座敷」としての機能を果たす。
農家の玄関「たたき」を象徴するのはフロントロビー。その先にある「板間」の空間は竹のフローリングを用いたトラベルライブラリー。縁側を思わせるデッキで座椅子に腰かけて宿の中心にある棚田を一望できるパブリックスペース「棚田テラス」は屋外ながら「座敷」としての機能を果たす。
半個室の食事処は壁の和紙に藁、米、竹、七島藺を漉き込むことで農家らしい趣に。牛肉、猪肉、鹿肉、穴熊肉を地味深いスッポン出汁にくぐらせて味わう「山のももんじ鍋」など、野山の恵みを堪能できる。
星野リゾート・界の各施設では、1泊2日の湯治体験プログラム「うるはし現代湯治」がおもてなしとして用意されている。〈界 由布院〉で行われているのは「温泉いろは」。泉質や成り立ちなど温泉の知識を持つ湯守りが紙芝居を用いて、由布院温泉の歴史や泉質、入浴法や簡単な体操を説明してくれる。
そのあとに楽しみたいのが、正面に由布岳を望み、石材を多様した大浴場での湯浴み。内風呂には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにゆったりと寛げる「ぬる湯」と2つの浴槽が。泉質は単純温泉で、化粧品にも使われるメタけい酸を豊富に含み、さっぱりやわらかな肌触り。露天風呂には寝湯があり、流れる風や鳥の声を感じながらのんびりと長湯ができる。
そのあとに楽しみたいのが、正面に由布岳を望み、石材を多様した大浴場での湯浴み。内風呂には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにゆったりと寛げる「ぬる湯」と2つの浴槽が。泉質は単純温泉で、化粧品にも使われるメタけい酸を豊富に含み、さっぱりやわらかな肌触り。露天風呂には寝湯があり、流れる風や鳥の声を感じながらのんびりと長湯ができる。
さらに、その土地に根付く文化的な体験ができる「ご当地楽」というおもてなしも。〈界 由布院〉では、この地域で農閑期に行われてきた手仕事「わら綯(な)い」に挑戦できる。祈るように手を合わせ、思いを込めて藁を綯い、稲穂や水引で飾って完成。自らの手で作った手のひらサイズのお守りは、大切に持ち帰って玄関に飾っている。
今回宿泊したのは、全45室中2タイプある離れの1室。「蛍かごの間(棚田離れ)」と呼ばれる平屋の部屋は、西日本で多く見られる黒色の杉板張りの寄棟屋根で、軽やかな印象に。室内に入ると、木目が美しい日田杉の廊下の先に一枚ガラスのピクチャーウィンドウがあり、その先に棚田の景色が広がる。七島藺の畳を敷いたリビングルームの縁側でも、棚田を眺め、稲、風、季節、虫、鳥、さまざまな香りや音に包まれながら、のんびり時を過ごせる。離れには露天風呂も付いているので、温泉と縁側を行き来するのも贅沢だ。
もう1タイプの離れは、くぬぎ林の中に佇み、専用の湯小屋を備えた「蛍かごの間(くぬぎ離れ)」。離れ以外の客室でも全室が「蛍かごの間」にあたり、蛍かごから着想を得たという七島藺製の照明を設置。籠の中を蛍が舞っているかのように淡い光が点滅する様はなんともロマンチック。ベッドのヘッドボードやソファにもマダケ竹材生産量日本一の大分らしく竹を取り入れ、大分ならではの伝統や文化、日本古来の風情を感じられる。
もう1タイプの離れは、くぬぎ林の中に佇み、専用の湯小屋を備えた「蛍かごの間(くぬぎ離れ)」。離れ以外の客室でも全室が「蛍かごの間」にあたり、蛍かごから着想を得たという七島藺製の照明を設置。籠の中を蛍が舞っているかのように淡い光が点滅する様はなんともロマンチック。ベッドのヘッドボードやソファにもマダケ竹材生産量日本一の大分らしく竹を取り入れ、大分ならではの伝統や文化、日本古来の風情を感じられる。
初夏の田植え前の水鏡や田植え直後の新緑、秋に実る金色の稲穂、晩秋の藁こづみ、白い雪をまとう冬の棚田。朝焼けや夕焼けにも胸を打たれる。季節や時間ごと移ろう景色と温泉と、温かなおもてなしに癒される。
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illustration Yoshifumi Takeda
甲斐みのり
かい みのり 文筆家。旅、散歩、甘いもの、建築など幅広い題材について執筆。その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。
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