CULTURE
ザハ・ハディドの国立競技場が建つ東京を鮮やかに描く芥川賞受賞作『東京都同情塔』。
『カーサ ブルータス』2024年3月号より
February 22, 2024 | Culture, Architecture | a wall newspaper | photo_Kenya Abe text_Hikari Torisawa
建築家を主人公に据えた小説『東京都同情塔』が描く景色とは? 言語と建築が交差し、もうひとつの都市の姿を顕現させる。
ザハ・ハディドによる国立競技場が建つ、パラレルな近未来東京を舞台にした『東京都同情塔』が話題だ。主人公は建築家の牧名沙羅。ザハを敬愛する彼女は《今にも動き出すのではないかという生命感を湛えた構造物》に対峙し、《周囲に林立するビル群や道路を走る車のライトを養分にして独自進化を遂げた、巨大生物》のようなスタジアムに導かれるように、都市の未来を方向づける「東京都同情塔」を設計する。第170回芥川賞を受賞したこの小説を生み出した九段理江さんが、建築に心惹かれるようになったのは、あるザハ・ハディド建築との出会いがきっかけだったという。
「スコットランドのグラスゴーに滞在していたときに〈リバーサイド・ミュージアム〉という交通博物館を訪ねました。子どもの夢や落書きを形にしたような形状で、こんな建築が実在するんだ! と驚かされました。それがザハの作品だったんです」
「スコットランドのグラスゴーに滞在していたときに〈リバーサイド・ミュージアム〉という交通博物館を訪ねました。子どもの夢や落書きを形にしたような形状で、こんな建築が実在するんだ! と驚かされました。それがザハの作品だったんです」
そこから現代建築に興味を持ったものの「建築小説を書こうとは考えもしなかった」という九段さんの心を変えさせたのが「アンビルト」。実現しなかった建築や都市構想を指すこの5文字が、東京にザハ建築が造られるという報道に心躍らせ白紙撤回のニュースに悲しんだ作家の手を引き、建築の歴史と未来に目を向けさせた。
「建築の本を読み漁り、『丹下健三都市論集』の、日本という国の景色や精神性を考える文章に衝撃を受けて、建築家を主人公にしたいと思い始めました。『新・建築入門』で、隈研吾の哲学的思想の深さに触れて少しずつ構想がまとまり、ザハの国立競技場が建っている東京が生まれました。東京にあのスタジアムが建っていたら、人や都市にどのような影響があるのか議論する時間が十分にあったなら、今ある現実は全く違っていたと思うんです。でも実現しなかった世界を想像力によって描くことは現実を見つめ直す方法のひとつだと思う。さらに、どんなに荒唐無稽だったとしても、書かれてしまえばそれはアンビルトではなくなるのではないか。この小説はそんな思考実験にもなっています」
「建築の本を読み漁り、『丹下健三都市論集』の、日本という国の景色や精神性を考える文章に衝撃を受けて、建築家を主人公にしたいと思い始めました。『新・建築入門』で、隈研吾の哲学的思想の深さに触れて少しずつ構想がまとまり、ザハの国立競技場が建っている東京が生まれました。東京にあのスタジアムが建っていたら、人や都市にどのような影響があるのか議論する時間が十分にあったなら、今ある現実は全く違っていたと思うんです。でも実現しなかった世界を想像力によって描くことは現実を見つめ直す方法のひとつだと思う。さらに、どんなに荒唐無稽だったとしても、書かれてしまえばそれはアンビルトではなくなるのではないか。この小説はそんな思考実験にもなっています」
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