ART
肖像画が描かない、王と女王の怖い話。
| Art | casabrutus.com | text_Naoko Aono
権力の座を奪ったり奪い返したり、正妻の座を追われたり。王や王室にはそんな抗争がつきものだ。とりすました肖像画の裏側にもそんなドラマが隠れている。『怖い絵』シリーズで知られるドイツ文学者・西洋文化史家の中野京子がナビゲートする『ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展』でその“怖い歴史”を見てみよう。
「KING&QUEEN」展に並ぶのはロンドンの〈ナショナル・ポートレート・ギャラリー〉のコレクション。〈ロンドン・ナショナル・ギャラリー〉に隣接する、世界でも珍しい国立の肖像画専門の美術館だ。今回の展覧会には16世紀以降のイギリス王室から名だたる王・女王の肖像画や肖像写真が並ぶ。その多くが美しい宝石や手の込んだ服に身を包んだ上品な姿で描かれているけれど、彼ら・彼女らは血みどろの歴史を生き残ったり、それに倒れたりしている。
たとえば最初の展示室に登場するヘンリー8世は6度、結婚したことで知られる。彼は跡継ぎとなる男子が生まれなかったから、とか愛人と結婚したかったから、といった理由で妻を処刑していた。6人の妻のうち、比較的幸福な人生を送ったといえるのは病没したジェーン・シーモアとヘンリーの死後も生きたキャサリン・パーぐらいだった。
レディ・ジェーン・グレイはエドワード6世の従妹だった女性。この展覧会では作者不詳の肖像画が出品されている。エドワード6世はローマ・カトリックを信仰する異母姉のメアリーの即位を阻むためジェーンを女王にしたが、メアリーが自分こそは正当な王位継承者だと主張し、16歳のジェーン・グレイを斬首してしまった。2017年に開かれた『怖い絵』展のメインビジュアルだったポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》(〈ロンドン・ナショナル・ギャラリー〉蔵)はこのときの斬首の光景を描いたものだ。
1625年に即位したチャールズ1世はイングランド議会を解散し、専制政治を行ってプロテスタントの一派であるピューリタンを弾圧する。そのため1642年に起こったピューリタン革命によって逮捕され、首を刎ねられた。チャールズ1世の子、チャールズ2世は亡命していたが、1660年にイングランドに戻って即位し、王政復古となる。その当時のロンドンはペストが大流行し、多くの死者が出ていた。そこで運のいいことに1666年、ロンドン大火が起きる。木造の小さな家屋が密集していたエリアは焼けてしまい、石造りの建物に置き換えられ、ペストも収束した。チャールズ2世は立ち退きなどの手間をかけることなく、都市改造を行うことができたのだ。人間、何が幸いするかわからないものだ。
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