ART
カオスな現代社会を表した柚木沙弥郎の鳥獣戯画。
『カーサ ブルータス』2019年8月号より
July 30, 2019 | Art | a wall newspaper | photo_Norio Kidera(portrait) text_Masae Wako
96歳の染色家、柚木沙弥郎の新作は"鳥獣戯画"! 愉快で痛快な大作に、作者が込めた想いとは?
エイヤッと投げ飛ばされてひっくり返った兎と、それを見て喜ぶ蛙たち。傍らでは猿の僧侶が大マジメな顔で読経中……。12世紀の絵仏師・鳥羽僧正の筆と伝わる「鳥獣戯画」は、擬人化された動物による破天荒なエンターテインメントだ。なんとこの名作をモチーフに、96歳の染色家・柚木沙弥郎が新作を発表。〈神奈川県立近代美術館〉で公開中だ。
「鳥獣戯画の魅力は、動物が全然かわいらしくないところかなあ」
と笑う柚木は、民藝の染織家・芹沢銈介に師事し、型染めから絵本やグラフィックデザインまで手がけるアーティスト。鮮やかな色使いでも知られているが、「鳥獣戯画は墨一色の線だけで表現されている“白描画”。僕も色はいらないと感じて墨だけにした。実はこういう筆描きの絵も初めて。人生最初で最後のいたずら描きだと思い、一気呵成に描きました」
「鳥獣戯画の魅力は、動物が全然かわいらしくないところかなあ」
と笑う柚木は、民藝の染織家・芹沢銈介に師事し、型染めから絵本やグラフィックデザインまで手がけるアーティスト。鮮やかな色使いでも知られているが、「鳥獣戯画は墨一色の線だけで表現されている“白描画”。僕も色はいらないと感じて墨だけにした。実はこういう筆描きの絵も初めて。人生最初で最後のいたずら描きだと思い、一気呵成に描きました」
長さ12Mにわたる画面には、兎と蛙が相撲をとるおなじみの場面もあれば、遊女を連れた猿を蛙が物欲しげに眺める……といったオリジナルシーンも現れる。
「原画のキャラクターや場面から好きな絵柄を選んで繋げ、ひと続きの物語のように再構成してみた」という柚木だが、実はこの物語、ある舞台芸術がベースになっている。それは、柚木と親交の深い〈ギャラリーTOM〉を創設した故・村山亜土が、かつて鳥獣戯画を題材につくった舞踊劇。
「鳥獣戯画が描かれたのは、世界が終わるという末法思想が蔓延していた時代。村山さんは兎を貴族、蛙を兵隊、猿を実業家に見立て、社会の不安とカオスを表した。その脚本を参考にしたんです」
たとえば、蛇が出てきて動物たちが混乱しているラストの場面が示すのは、現代社会の閉塞感。
「世の中はやるせない事件やいたましいニュースばかり。でも僕は、そういう負のエネルギーを別の力に変えなくちゃと思ったの。アートを見て自分なりの面白さを見つけることは、閉塞感を突破する力になる。青臭いと思われるかもしれないけれど希望をなくさないでほしい。この絵が、そのきっかけになったらうれしいね」
「原画のキャラクターや場面から好きな絵柄を選んで繋げ、ひと続きの物語のように再構成してみた」という柚木だが、実はこの物語、ある舞台芸術がベースになっている。それは、柚木と親交の深い〈ギャラリーTOM〉を創設した故・村山亜土が、かつて鳥獣戯画を題材につくった舞踊劇。
「鳥獣戯画が描かれたのは、世界が終わるという末法思想が蔓延していた時代。村山さんは兎を貴族、蛙を兵隊、猿を実業家に見立て、社会の不安とカオスを表した。その脚本を参考にしたんです」
たとえば、蛇が出てきて動物たちが混乱しているラストの場面が示すのは、現代社会の閉塞感。
「世の中はやるせない事件やいたましいニュースばかり。でも僕は、そういう負のエネルギーを別の力に変えなくちゃと思ったの。アートを見て自分なりの面白さを見つけることは、閉塞感を突破する力になる。青臭いと思われるかもしれないけれど希望をなくさないでほしい。この絵が、そのきっかけになったらうれしいね」
柚木沙弥郎の「鳥獣戯画」
〈神奈川県立近代美術館 葉山館/展示室1〉神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1 TEL 046 875 2800。〜9月8日。9時30分〜17時(入館16時30分)、月曜休館(ただし祝日および振替休日の場合は開館)。
柚木沙弥郎
ゆのきさみろう 1922年東京都生まれ。戦後、民藝運動を牽引した染織家・芹沢銈介に師事。以後70年以上にわたって型染めや絵本、版画から立体まで幅広く制作中。