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【東京・白金台】内田祥三設計の壮麗な建築や、歴史的建造物指定の消防署を訪ねる。|甲斐みのりの建築半日散歩
ARCHITECTURE

【東京・白金台】内田祥三設計の壮麗な建築や、歴史的建造物指定の消防署を訪ねる。|甲斐みのりの建築半日散歩

| Architecture, Culture, Design, Travel | casabrutus.com | photo_Ryumon Kagioka   text_Minori Kai

白金台にひっそり佇む〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉は、安田講堂をはじめとする東京大学の建築を手がけたことでも知られる内田祥三の設計。さらに、歴史的建造物の中に入って往年の消火道具や消防車などを見学できる消防署や、50年以上続く洋菓子店など、白金台・高輪は静やかながら散歩にぴったりの地。

●知られざる白金の名建築。内部も見学できる〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉。

●知られざる白金の名建築。内部も見学できる〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉。
白金台駅前の目黒通り沿いを歩いていたときのこと。〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉の案内看板を見つけ何気なく立ち寄ってみると、建築構造や都市計画などで数多くの業績を残した内田祥三(うちだよしかず)設計の、ダイナミックな名建築に出合うことができた。旧公衆衛生院は昭和初期に、手洗いやうがいなどを通して感染病予防を普及するために設立された、この時代に通じる施設だ。
〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉は、18世紀頃のゴシックリバイバルの流れを汲むアメリカの大学などの建築様式に近い。
〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉は、18世紀頃のゴシックリバイバルの流れを汲むアメリカの大学などの建築様式に近い。
2・3階まで吹き抜けの中央ホール。床は大理石、柱は人造大理石、天井は漆喰と贅沢な仕上げ。
2・3階まで吹き抜けの中央ホール。床は大理石、柱は人造大理石、天井は漆喰と贅沢な仕上げ。
〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉は、18世紀頃のゴシックリバイバルの流れを汲むアメリカの大学などの建築様式に近い。
2・3階まで吹き抜けの中央ホール。床は大理石、柱は人造大理石、天井は漆喰と贅沢な仕上げ。
1923(大正12)年の関東大震災をきっかけに、傷病者の医療、防疫、上下水道など、環境衛生施設の整備や公衆衛生生活の重要性が広く伝えられるようになった。そうして国民の保健衛生に関する研究調査や公衆衛生の普及活動を目的に設立され、厚生省所管として1938(昭和13)年に事業を開始したのが「公衆衛生院」。数多くの研究員がさまざまな実験をおこない、病気から体を守り健康を維持する方法を、研修を受けた保健師が全国へと普及した。

その拠点となった、地下1階、地上6階、塔屋4階、延床約15,000平方メートルの壮大な建物は、関東大震災後の復興援助の一環としてアメリカのロックフェラー財団からの支援・寄付を受け、東京帝国大学伝染病研究所と同敷地内に隣接して建てられた。
スクラッチタイルの外壁や連続したアーチの外観的特徴は「内田ゴシック」と呼ばれている。
スクラッチタイルの外壁や連続したアーチの外観的特徴は「内田ゴシック」と呼ばれている。
玄関前の池は浄水場の実験施設として使用されていた。
玄関前の池は浄水場の実験施設として使用されていた。
スクラッチタイルの外壁や連続したアーチの外観的特徴は「内田ゴシック」と呼ばれている。
玄関前の池は浄水場の実験施設として使用されていた。
設計は、隣接する旧伝染病研究所の〈東京大学医科学研究所〉や、安田講堂をはじめとした東大のキャンパスの建物を手がけ、東京帝国大学総長も務めた内田祥三。施工は現在の大成建設の前身となる大倉土木によるもの。当時の公衆衛生院は東京のもっとも高い建造物のひとつで、内田が晩年を過ごした西麻布の自宅からもこの建物が見えたという。

公衆衛生院として使用されていたのは、2002(平成14)年に国立保健医療科学院として統廃合され埼玉県へ移転するまでの64年間。その後、建物と敷地を港区が取得し、歴史的建造物としての意匠を保存しながら耐震補強と改修をおこない、2018(平成30)年に〈港区立郷土歴史館〉として開館。展示室のほか、ミュージアムショップ、図書室、カフェなどは一般利用が可能で、その他にも子育て関連施設やがん在宅緩和ケア支援センターなどの施設もあり、港区内外の人たちに開かれた複合施設として活用されている。
階段のガラス板は〈港区立郷土歴史館〉として公開される前に安全のため取り付けられた。
階段のガラス板は〈港区立郷土歴史館〉として公開される前に安全のため取り付けられた。
こちらの金属製の照明は当時のもの。他に、竣工当時の写真を元に復元された照明も。
こちらの金属製の照明は当時のもの。他に、竣工当時の写真を元に復元された照明も。
地下1階に外光を取り入れるため、床にプリズムガラスを埋め込んだ1階中央ホール。
地下1階に外光を取り入れるため、床にプリズムガラスを埋め込んだ1階中央ホール。
汲み取り式トイレが主流だった時代に水洗式が設置されていたため、ホーローにペンキで水洗便所使用の際の注意書きが記されている。
汲み取り式トイレが主流だった時代に水洗式が設置されていたため、ホーローにペンキで水洗便所使用の際の注意書きが記されている。
院長室があった3階のトイレは賓客も多いため床や壁は大理石造り。今でも当時のまま大理石が残されている。
院長室があった3階のトイレは賓客も多いため床や壁は大理石造り。今でも当時のまま大理石が残されている。
階段のガラス板は〈港区立郷土歴史館〉として公開される前に安全のため取り付けられた。
こちらの金属製の照明は当時のもの。他に、竣工当時の写真を元に復元された照明も。
地下1階に外光を取り入れるため、床にプリズムガラスを埋め込んだ1階中央ホール。
汲み取り式トイレが主流だった時代に水洗式が設置されていたため、ホーローにペンキで水洗便所使用の際の注意書きが記されている。
院長室があった3階のトイレは賓客も多いため床や壁は大理石造り。今でも当時のまま大理石が残されている。
建設当初の姿がよく保存されている2階中央ホール、3階旧院長室、4階旧講堂など、建物見学は無料で楽しめる。建設当時から食堂として設計されたスペースは、野菜たっぷりのランチや季節のケーキなどのデザートが味わえるカフェ〈VEGETABLE LIFE〉として営業しているので、建築散歩の途中に、ランチを食べたりお茶をするのにもちょうどいい。
池田泰山が設立した泰山製陶所で生産された泰山タイルと思われるタイルが、腰壁を覆う旧食堂。現在は、カフェ〈VEGETABLE LIFE〉として営業。誰でも利用できる。
池田泰山が設立した泰山製陶所で生産された泰山タイルと思われるタイルが、腰壁を覆う旧食堂。現在は、カフェ〈VEGETABLE LIFE〉として営業。誰でも利用できる。
この日は〈VEGETABLE LIFE〉の「ベジボックス(厚揚げのチンジャオロース)」(1,100円)と、「自家製生姜スカッシュ」(440円)をランチに。3種類のベジボックスのメニューは定期的に変更される。
この日は〈VEGETABLE LIFE〉の「ベジボックス(厚揚げのチンジャオロース)」(1,100円)と、「自家製生姜スカッシュ」(440円)をランチに。3種類のベジボックスのメニューは定期的に変更される。
池田泰山が設立した泰山製陶所で生産された泰山タイルと思われるタイルが、腰壁を覆う旧食堂。現在は、カフェ〈VEGETABLE LIFE〉として営業。誰でも利用できる。
この日は〈VEGETABLE LIFE〉の「ベジボックス(厚揚げのチンジャオロース)」(1,100円)と、「自家製生姜スカッシュ」(440円)をランチに。3種類のベジボックスのメニューは定期的に変更される。
毎月4回ほど(2022年現在)スタッフの案内で約1時間ほどかけて館内をめぐる建物ガイドツアーも開催されているので、より詳しく建築的な見所を知りたい方は参加されてはいかがだろうか。関東大震災の際、東大の図書館の蔵書が燃えてしまったことを教訓に、蔵書を守るため内田祥三が防火シャッターをつけることにこだわった、通常は非公開の図書室内の書庫もガイドツアーなら見学できる。
340席を有する階段状の講堂。式典や研究発表に使用されていた。椅子のクッションと天井板以外は当時のまま保存されている。
340席を有する階段状の講堂。式典や研究発表に使用されていた。椅子のクッションと天井板以外は当時のまま保存されている。
壇上の左右には、新海竹蔵による「羊」と「葺鷺」の陶製レリーフが。内田祥三設計の建造物には他にもいくつか、新海の作品が設置されている。
壇上の左右には、新海竹蔵による「羊」と「葺鷺」の陶製レリーフが。内田祥三設計の建造物には他にもいくつか、新海の作品が設置されている。
建設当時は高級だったベニヤ材をふんだんに使った旧院長室。床は寄木細工が使用され、建物内でもっとも手の込んだしつらえ。
建設当時は高級だったベニヤ材をふんだんに使った旧院長室。床は寄木細工が使用され、建物内でもっとも手の込んだしつらえ。
戦前の書架が残されている旧書庫。建物ガイドツアーの際に見学できる。
戦前の書架が残されている旧書庫。建物ガイドツアーの際に見学できる。
館内は、無料エリアと有料エリアに分かれる。こちらは無料で港区の歴史を映像で紹介する「ガイダンスルーム」。
館内は、無料エリアと有料エリアに分かれる。こちらは無料で港区の歴史を映像で紹介する「ガイダンスルーム」。
340席を有する階段状の講堂。式典や研究発表に使用されていた。椅子のクッションと天井板以外は当時のまま保存されている。
壇上の左右には、新海竹蔵による「羊」と「葺鷺」の陶製レリーフが。内田祥三設計の建造物には他にもいくつか、新海の作品が設置されている。
建設当時は高級だったベニヤ材をふんだんに使った旧院長室。床は寄木細工が使用され、建物内でもっとも手の込んだしつらえ。
戦前の書架が残されている旧書庫。建物ガイドツアーの際に見学できる。
館内は、無料エリアと有料エリアに分かれる。こちらは無料で港区の歴史を映像で紹介する「ガイダンスルーム」。

〈港区立郷土歴史館・旧公衆衛生院〉

東京都港区白金台4-6-2 ゆかしの杜内 TEL03 6450 2107。9時〜17時(土曜〜20時)※常設展示室および特別展示室の入館受付は閉館の30分前まで。第3木曜休(祝日の場合は開館、前日の水曜休)。常設展観覧料300円。館内ガイドツアーは不定期開催。詳細は公式URLで確認を。

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甲斐みのりの建築半日散歩illustration Yoshifumi Takeda

甲斐みのり

かい みのり  文筆家。旅、散歩、甘いもの、建築など幅広い題材について執筆。その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。

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