吉田実香のNY通信|第3のメット〈ザ・メット・クロイスターズ〉を知っていますか? | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

吉田実香のNY通信|第3のメット〈ザ・メット・クロイスターズ〉を知っていますか?

マンハッタンの北端に、中世の僧院を思わせる石造りの建物があります。ハドソン河を見おろす丘に佇む、メトロポリタン美術館の分館〈ザ・メット・クロイスターズ〉。これまで意外と知られてこなかった、NYが誇る「秘密の隠れ家」をご案内しましょう。

8月の段階で早くも来場者が100万人突破という新記録を打ち立てた、メトロポリタン美術館の『ヘブンリー・ボディース』展。同館がこれまで開催したファッション展の中ではすでに最多動員記録を樹立、またメット史上においては1978年の「ツタンカーメンの至宝」展や、1963年の「モナリザ」公開に続く、実に三番目の動員数を誇るメガヒット展覧会となった。

10月8日まで開催される、この『ヘブンリー・ボディース』展。メトロポリタン美術館と、分館〈ザ・メット・クロイスターズ〉、両ロケーションでの同時開催ファッション展とは今回初の試みだ。しかし〈ザ・メット・クロイスターズ〉とは一体どんな場所? どこにあるのだろう?

幽玄な別世界にタイムスリップ

通称〈ザ・クロイスターズ〉。クロイスターとは、中世ヨーロッパの僧院や修道院に見られる、中庭を囲む屋根付きの回廊のこと。同時に修道院そのものや、隠遁生活も指す。緑豊かに茂るフォート・トライオン公園の丘陵に現れた、中世の建物。一歩足を踏み入れると、静寂さといい、世紀を超えた美術品が醸し出す荘厳さといい、マンハッタンにいる事を忘れさせられてしまう空間が広がっている。

〈ザ・クロイスターズ〉はアメリカで唯一の中世美術専門・美術館だ。12~15世紀にかけての西洋中世美術品を約2,000点ほど収蔵する。そもそもは、かのロダンに師事したアメリカ人彫刻家ジョージ・グレイ・バーナード(1863~1938年)のコレクションが発端だ。フランスで制作活動のかたわら、中世の彫刻や建築パーツの売買で生活費を稼いだバーナードは、第一次大戦勃発前夜にアメリカに帰国。教会のようなレンガ造りの建物に欧州で蒐集した美術品や建築パーツを展示し、これをクロイスターズと呼んだ。

積極的な文化事業で知られた資産家ジョン・D・ロックフェラー二世(1874-1960)の力添えにより、メトロポリタン美術館がコレクションを買い上げる。ロックフェラーの個人コレクションも40点ほど加わり、バーナードの建物から少々北に位置する場所で1938年、新たに〈ザ・クロイスターズ〉として、あらゆる人々に開かれたのである。

NYっ子なら、みな小学校や中学の課外授業で訪れたことのある馴染みの場所だ。洒落たデートスポットとしても重宝され、またさまざまな人々が、日々のストレスや疲れた心を癒すために訪れる。
有名なユニコーンのタペストリーを眺めたり、中庭に出て草花を愛でたり。実はこのガーデン、中世の工芸品や写本に描かれた草花が何百種と植えられている。薬草ガーデンや果樹畑も、深い研究と手厚い世話によって現在に再現されている。

シェークスピア作品などによく登場する毒草のマンドレイクが元気に育っているかと思えば、先ほど見たばかりのタペストリーに描かれていたザクロやアザミ、ランの本物も色鮮やかに…!
ここはダウンタウンやミッドタウンから地下鉄で行ける、近くて遠い別世界なのである。