猪熊弦一郎が愛した“壁”が写真集になりました。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

猪熊弦一郎が愛した“壁”が写真集になりました。

「いのくまさん」の愛称で、多くの人に親しまれた画家・猪熊弦一郎。初となる写真集が、今年1月発売された。その被写体は、壁。ありふれた光景の中に、画家が見たものとは?

「ハレム」とメモされた1枚。猪熊はスライドを「壁」と記したファイルに選別し、折に触れて家族や友人に映写して見せていたという。
70年に及ぶ画業の中で、数多くの作品を残した猪熊弦一郎。時代を追ってそれらを見ていくと、同じ画家が描いたものとは思えないほど作風が異なっている。中でも、大きな転機となったのが、1955年の渡米。ニューヨークに活動拠点を移した猪熊は、それまでの具象画から一変して抽象画を描くように。その後、約20年続いたアメリカ滞在中も作風はどんどん変化を遂げていったという。
マウントの右上に、写真の落書きと同じ絵が見える。いわゆるグラフィック・アートが生まれる以前のニューヨークの落書きを記録した写真集は、当時の街の様子を伝える貴重な資料でもある。
初の写真集『ニューヨークの壁』は、1950年代後半〜60年代に、猪熊がニューヨークの街角で撮影した壁の写真を収録。ポップな落書きに目を奪われたと思ったら、剥がれ落ちた塗装の下からレンガが顔を覗かせていたり、おどろおどろしいほど真っ赤に塗られたシャッターがあったり。当時のいのくまさんが何に興味を抱き、何を美しいと思ったのか……それがほんの少しわかるような気がするから不思議だ。実際、60年前後に制作された絵画作品には、これらの壁にインスパイアされたような描写も見られるという。
本書に収録された写真は、「壁」ファイルに収められていたスライド154点と、別のファイルにあった12点の計166点から厳選している。
本書に収録の57点の写真は、写真家・鈴木理策が編集(選別と配列)。猪熊が文字や絵を描き込んだ、35mmカラーポジフィルムのスライドマウントをそのまま活かした書籍デザインはデザイナーの黒田益朗が担当している。画家・猪熊弦一郎の転換期に少なからず影響を与えた壁の存在。興味のある方は、ぜひご一読を。
表紙には、空港で撮ったとおぼしきポジを使用。撮影している猪熊の影が映り込んでいるようにも。

『ニューヨークの壁』カラー128ページ。2,700円(税込)。700部限定発売。発行は丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。公式サイト

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