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鉄による豊かな表現を模索する彫刻家・稲葉友宏。その“空白”に込めた思いとは?
January 12, 2022 | Art | PR | photo_Satoshi Nagare text_Akiko Miyaura editor_Keiko Kusano
彫刻の一部に形のない“空白”を取り込み、見た人の想像を掻き立てる。目に見えるものだけではない豊かな彫刻表現を求め、日々「鉄」という手強い相手と向き合っている彫刻家の稲葉友宏。現在、開催中の個展『THE STORIES THAT YOU SEE』の制作秘話や“空白”に込めた思いなどを、制作の拠点である栃木のアトリエで語っていただきました。
稲葉友宏の個展『THE STORIES THAT YOU SEE』が、現在、東京・天王洲にあるギャラリー〈YUKIKOMIZUTANI〉で開催されている。その準備は、会期の1年ほど前から始まったという。
「これだけ、1点1点の作品にじっくり向き合えたのは久しぶり。だからこそ、今までにない挑戦もできましたし、素材やモチーフの研究も丁寧にできた感触があります。中でも時間をかけたのは《着地する月》。構成としては平面的ですが、立体に起こしたときに空間の主役になるようなラインを表現しないといけない。動物が立つ角度や角の角度を何度も修正しながら、3ヶ月ほどかけて作り上げていきました」
馬、鹿、羊、キツネ──。そこに存在する動物たちはダイナミックに体を動かし、エネルギーに満ちあふれている。それでいて、どこかチャーミング。作品が持つ躍動感は、幼いころから身近にあったゲームやアニメの影響が大きいそうだ。
「これだけ、1点1点の作品にじっくり向き合えたのは久しぶり。だからこそ、今までにない挑戦もできましたし、素材やモチーフの研究も丁寧にできた感触があります。中でも時間をかけたのは《着地する月》。構成としては平面的ですが、立体に起こしたときに空間の主役になるようなラインを表現しないといけない。動物が立つ角度や角の角度を何度も修正しながら、3ヶ月ほどかけて作り上げていきました」
馬、鹿、羊、キツネ──。そこに存在する動物たちはダイナミックに体を動かし、エネルギーに満ちあふれている。それでいて、どこかチャーミング。作品が持つ躍動感は、幼いころから身近にあったゲームやアニメの影響が大きいそうだ。
「僕が制作前に描くスケッチって、重力を無視したものが多いんです(笑)。世代的にアニメーションなどが近くにあったので、静止している彫刻にもどこか映像への憧れが出ていて。1秒前、1秒先がどうなっているのかを想像できる作品を作りたくなる。それが躍動感のあるシルエットや、全身を作らず生命が生まれてくる、あるいは溶けていく過程を表現することに繋がっているんだと思います。非現実的なもの、瞬間的な動きを切り取ることを許してくれるのが、鉄という素材。その強度が、石や陶器ではできないシルエットや動きをかなえてくれるんです」
これらの作品の種は、長く書き溜めてきたメモ帳。常に持ち歩き、落書きのようなスケッチや、ふと気になった言葉を書き込んでいるのだという。
「立体に起こすときは、スケッチから想像の世界が広がる期待値の高い“形”を選ぶか、物語が膨らむ力のある“言葉”に合った形を探すかがほとんど。例えば、今回の展示作品でいうと、言葉から着想を得て制作したのがアルパカの彫刻。《白昼夢》という言葉に現実から離れた逃避のような響きを感じて、昼間の物語を連想できる動きやシルエットを作っていきました。普段は夜がテーマの作品ばかりなので、昼を題材にするのはめずらしいですね」
何より、稲葉の作品を最も印象づけているのが、彫刻の中にある空白。もともとは全身が存在する動物や人間の彫刻を作ってきたが、広がりを感じることができず、模索し続けていた。結果たどり着いたのが、今の空白を擁した彫刻だ。
「全身が存在する作品は強い答えがそこにあるので、展示した時点で完結してしまうんです。ゆえに、その後に広がりを感じられなくて。しかも、常に自分が近くにいて説明できるわけではなく、多くの彫刻は公共の場にポツンと置かれるじゃないですか。だから、作品自体に力や機能が備わっていないと、忘れ去られる風景になると思ったんです」
では、どう人と関わる機能を付随させれば、作品が自立するのか。そう考えたとき、稲葉は「人の想像を掻き立てるものでなくてはいけない」という結論に至った。
「彫刻は、物体のフォルムや存在そのもので思いや意味を示す作品。ならば、逆に“ない”ということが、気持ちを刺激する強力な要素になるはず。考古学者の方が、欠けた土器に惹かれるのと同じですよね。空白という力に気づいてからは、現れる瞬間なのか、消えていく瞬間なのか──その過程、時間軸を表現するような作品へと変化していきました」
「ない」ことによって鑑賞者の想像力が喚起され、それぞれの中で物語が広がっていく。例えば、この鹿はどこか知らない世界からやってきて、今目の前に現れている真っ只中なのか、あるいは何かの理由がありこの世から去って行く瞬間なのか……。動物の動きからも、自由にストーリーを膨らませることができる。それこそが、彼が大切にしてきた「想像力を介して物語を描く彫刻」に繋がるのだ。
これらの作品の種は、長く書き溜めてきたメモ帳。常に持ち歩き、落書きのようなスケッチや、ふと気になった言葉を書き込んでいるのだという。
「立体に起こすときは、スケッチから想像の世界が広がる期待値の高い“形”を選ぶか、物語が膨らむ力のある“言葉”に合った形を探すかがほとんど。例えば、今回の展示作品でいうと、言葉から着想を得て制作したのがアルパカの彫刻。《白昼夢》という言葉に現実から離れた逃避のような響きを感じて、昼間の物語を連想できる動きやシルエットを作っていきました。普段は夜がテーマの作品ばかりなので、昼を題材にするのはめずらしいですね」
何より、稲葉の作品を最も印象づけているのが、彫刻の中にある空白。もともとは全身が存在する動物や人間の彫刻を作ってきたが、広がりを感じることができず、模索し続けていた。結果たどり着いたのが、今の空白を擁した彫刻だ。
「全身が存在する作品は強い答えがそこにあるので、展示した時点で完結してしまうんです。ゆえに、その後に広がりを感じられなくて。しかも、常に自分が近くにいて説明できるわけではなく、多くの彫刻は公共の場にポツンと置かれるじゃないですか。だから、作品自体に力や機能が備わっていないと、忘れ去られる風景になると思ったんです」
では、どう人と関わる機能を付随させれば、作品が自立するのか。そう考えたとき、稲葉は「人の想像を掻き立てるものでなくてはいけない」という結論に至った。
「彫刻は、物体のフォルムや存在そのもので思いや意味を示す作品。ならば、逆に“ない”ということが、気持ちを刺激する強力な要素になるはず。考古学者の方が、欠けた土器に惹かれるのと同じですよね。空白という力に気づいてからは、現れる瞬間なのか、消えていく瞬間なのか──その過程、時間軸を表現するような作品へと変化していきました」
「ない」ことによって鑑賞者の想像力が喚起され、それぞれの中で物語が広がっていく。例えば、この鹿はどこか知らない世界からやってきて、今目の前に現れている真っ只中なのか、あるいは何かの理由がありこの世から去って行く瞬間なのか……。動物の動きからも、自由にストーリーを膨らませることができる。それこそが、彼が大切にしてきた「想像力を介して物語を描く彫刻」に繋がるのだ。
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