これも琳派? 謎の多い鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》|ニッポンのお宝、お蔵出し | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

これも琳派? 謎の多い鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》|ニッポンのお宝、お蔵出し

琳派なのだけれど、あまり琳派っぽくない不思議な屛風、鈴木其一の《夏秋渓流図屛風》が〈根津美術館〉で展示されます。なぜこんな風に描かれているのか、謎の多い絵です。

《夏秋渓流図屛風》右隻。夏のヤマユリなどが描かれる。
東武鉄道の社長を務めた実業家、初代・根津嘉一郎が蒐集したコレクションをもとに開館した〈根津美術館〉。その彼が最晩年に入手したのが鈴木其一《夏秋渓流図屛風》だ。六曲一双の屛風の右隻に夏、左隻に秋の景色が描かれる。
《夏秋渓流図屛風》左隻。秋になって葉も色づいた。
少し前まで、鈴木其一自身あまり知られているとはいえない存在だった。江戸時代後期の江戸で活躍した琳派の絵師だ。師の酒井抱一の影に隠れてしまうようなところがあったのかもしれない。が、作品をよく見ていくと確かな力量が感じられる。近年では2016年に〈サントリー美術館〉などで其一単独の展覧会が開催され、注目が集まりつつある。

彼の作品の中でも《夏秋渓流図屛風》はひときわ奇妙な屛風だ。琳派で想像される装飾的、デザイン的というよりはいかにも本物の風景をスケッチして描いたようなリアルさがある。しかし、細部をよく見ていくとやはり変だ。

「ヤマユリは葉の裏の一部が見えるなど写実的に描かれるのに、クマザサの葉は文様化され、しかもすべて正面を向いています。水流はどろっとしたアメーバのように感じられる。檜や岩に生えた苔も数が多すぎるように思います。一見リアルな光景なのですが、こういった細部が違和感を覚えさせる。この世のものではないような、幻想的で特異な画面です」と〈根津美術館〉の学芸部次長、野口剛さんは言う。
《夏秋渓流図屛風》右隻(部分)。檜や岩にびっしりと描かれた苔。虫のように動いていきそうにも思える。
渓流はそれぞれ右隻の右奥と左隻の左奥から手前に向かって流れ落ちてくる。群青に金泥で描かれた水流は不透明な塊のようにも感じられる。重なり合う波と流れの大小だけで奥行きが示される。この構図については、円山応挙の《保津川図屛風》という作品との関連も指摘されている。其一は江戸を拠点としていたが、38歳のときに京都の土佐家で修業をするとの名目で西日本を旅したことがあった。このとき、旅先での水流のスケッチなども残しているのだが、応挙の作品もその折に見た可能性がある。葛飾北斎が《諸国瀧廻り》などで描いた、こちらも現実離れした水流の表現と通じ合うものもある。

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