ART
バンクシーがいまなお作品を更新し続けるパレスチナの「核心」エリアを訪ねる。
『カーサ ブルータス』2020年3月号より
May 29, 2020 | Art, Culture, Travel | Where’s BANKSY? Bethlehem | photo_Keisuke Fukamizu text_Toko Suzuki
パレスチナ問題の象徴でもある分離壁に作品を描き、バンクシーは世界の目をこの問題に向けさせます。今なお作品が更新され続けるベツレヘムを訪ねました。
バンクシーがパレスチナで活動を始めたのは、いまから約17年前。その時に《花束を投げる暴徒》の巨大な壁画を描き残したのが、キリスト生誕の地として知られるベツレヘムだった。市街にもいくつかのバンクシー作品が現存するこの地は、世界中から祈りを捧げる巡礼者が集まる一方で、イスラエル人とパレスチナ人居住区を隔てる巨大な壁がそびえ立つ。イスラエル政府が国連から国際法違反と人権侵害を非難されても、いまなお強行建設を続ける「分離壁」だ。
2005年、再びパレスチナを訪れたバンクシーは、この分離壁に9点の作品を描き世界中で報道される。壁に巨大な切り取り線を描いた作品や風船につかまって壁を乗り越えていく少女を描き「現在のパレスチナは世界最大の野外刑務所であり、グラフィティアーティストにとって究極の活動ができる旅先だ」と呼びかけ議論を起こした。そして17年にはベツレヘムの分離壁の目の前に〈ザ・ウォールド・オフ・ホテル〉をオープン。世界各国から報道陣や観光客が集まるようになると、ホテル近くにあったイスラエル軍の駐屯地は撤退したという。
現地での反応はさまざまだ。分離壁近くの難民キャンプでボランティア活動をするモハメッド・ソアーさんは「バンクシーはパレスチナ人にとってアートの重要性を教えてくれた。水も食料も大事だけど、人間性を取り戻すことがいかに大切かということをね」と話す。その一方で「旅行者はバンクシーの作品を観に来るだけ」とパレスチナ問題に無関心な外国人旅行者に憤りを隠せない地元住民も少なくない。バンクシーの作品を壁ごと切り取って売却したり、偽グッズの土産物屋を開くたくましいパレスチナ人もいる。
しかし、バンクシーはいまも定期的にパレスチナを訪れている。分離壁に描かれた作品はすぐに消えていく運命にあるが、それでもなお〝分離壁の作品〟を更新し続けている。17年には、ホテル目の前の分離壁に最新作《天使》が登場した。なぜバンクシーは分離壁にこだわり続けるのだろう。14年にイスラエル軍がガザ地区を徹底攻撃した後、すぐに現地を訪れたバンクシーはこんな言葉を綴ったグラフィティを残している。「強者と弱者の争いから手を引けば、強者の側につくことになる。中立ではいられない」
ベツレヘムはエルサレムから車で20分ほど。北部にある〈ザ・ウォールド・オフ・ホテル〉に面して分離壁が広がる。分離壁に描かれた一連作品はそのほとんどが現存しない。それ以外の市街に現存する作品は、ホテルから車で30分圏内に点在。作品を見学するツアーもある。 ※情報は2019年12月の取材当時のものです。