上野公園の「幻の駅」で見る、歴史が重なったアート。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

上野公園の「幻の駅」で見る、歴史が重なったアート。

2018年にアート・イベントが公開されて話題になった〈旧博物館動物園駅〉。今は使われていない「幻の駅」に、期間限定でアートが帰ってきました。積み重なった歴史を感じさせるインスタレーションです。

〈旧博物館動物園駅〉の夜の外観。開いた扉の奥に、フェルナンド・サンチェス・カスティーリョによる作品が見える。かつてはここから乗降客が出入りしていた。
〈旧博物館動物園駅〉改修後の外観。小ぶりながら重厚な建物だ。
扉は改修時に新しくデザインされた。〈東京国立博物館〉や〈東京芸術大学〉、〈国立科学博物館〉など、周囲の施設が図案化されている。
下の階に残る「きっぷうりば」。今回は立ち入ることはできないが、ガラス越しに見える。
〈旧博物館動物園駅〉の夜の外観。開いた扉の奥に、フェルナンド・サンチェス・カスティーリョによる作品が見える。かつてはここから乗降客が出入りしていた。
〈旧博物館動物園駅〉改修後の外観。小ぶりながら重厚な建物だ。
扉は改修時に新しくデザインされた。〈東京国立博物館〉や〈東京芸術大学〉、〈国立科学博物館〉など、周囲の施設が図案化されている。
下の階に残る「きっぷうりば」。今回は立ち入ることはできないが、ガラス越しに見える。
上野公園の一角にある〈旧博物館動物園駅〉は京成電鉄の駅。御料地に建てられたためか、小さいけれど重厚な装飾に覆われた荘厳な造りだ。1933年に開業したが戦後は利用者が減り、1997年に営業停止、2004年には廃止となった。その後、鉄道施設としては初の「東京都選定歴史的建造物」に指定されている。

普段、扉は開かれることはないが、現在、11月17日までの開催となる『想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019』展で内部に入ることができる。
ドーム状の天井の下にある作品は、前衛のいけばなのようにも見える。
この展覧会に参加しているのはスペイン出身の2人のアーティストだ。ローマのパンテオンを思わせるドームの下に置かれた、木と竹を組み合わせたオブジェはフェルナンド・サンチェス・カスティーリョの作品《Tutor》(テューター)だ。竹は本物だが、木は折ったリンゴの木から型をとって作ったブロンズ製のもの。
フェルナンド・サンチェス・カスティーリョ《Tutor》(テューター)。本物の竹にブロンズの木が絡みついたようなオブジェ。
《Tutor》(テューター)、根の部分。ブロンズとは思えないリアルさだ。
フェルナンド・サンチェス・カスティーリョ《Tutor》(テューター)。本物の竹にブロンズの木が絡みついたようなオブジェ。
《Tutor》(テューター)、根の部分。ブロンズとは思えないリアルさだ。
「折れた木は人類の悲劇の象徴でもあります。上野公園は戦時中、シェルターとして使われたと聞きました」(フェルナンド・サンチェス・カスティーリョ)

リンゴの木はアダムとイヴが知恵の実を採った木であり、ニュートンが万有引力を発見したとも伝えられる。特に西洋においては、人間精神のターニングポイントを象徴する木でもあるのだ。一方で竹は東洋において特に重用される木であり、身近な道具や建物に多用されている。生命ある竹と無機物であるブロンズの木、西洋と東洋、折れた木とそれを支えるかに見える竹、さまざまな要素が絡まり合う。
クリスティーナ・ルカス《終わりえぬ閃光》。ゲルニカへの爆撃で犠牲になった人々を描くピカソ《ゲルニカ》もインスピレーション源の一つだ。
クリスティーナ・ルカス《終わりえぬ閃光》。地図にプロットされていく、空爆を示す印は絶えることがない。
《終わりえぬ閃光》は、階段を降りた先のスペースで展示されている。
クリスティーナ・ルカス《終わりえぬ閃光》。ゲルニカへの爆撃で犠牲になった人々を描くピカソ《ゲルニカ》もインスピレーション源の一つだ。
クリスティーナ・ルカス《終わりえぬ閃光》。地図にプロットされていく、空爆を示す印は絶えることがない。
《終わりえぬ閃光》は、階段を降りた先のスペースで展示されている。
階段の下、3面のスクリーンに投影されているのはクリスティーナ・ルカスの《終わりえぬ閃光》という映像作品だ。彼女は専門家の協力も得て世界中のビッグ・データや資料をリサーチし、世界各地の空爆の歴史を可視化した。1911年に世界初の空爆が行われて以来、最新のものまでが網羅され、空爆の日付や場所、犠牲になった民間人の数や記録写真がスクリーンに表示される。

「およそ100年の空爆の歴史をたどっていくと、テクノロジーの進化には驚かされます。最初のうちはモノクロームの写真が多かったけれど、後半にはカラー写真が大半になる。爆撃自体の技術も進んで、ドローンなどが活用されるようになってきました。最近のものはまるでビデオ・ゲームのようでリアリティが感じられないかもしれないけれど、地上で生身の人々が犠牲になっていることには変わりありません」(クリスティーナ・ルカス)

この作品は展示される場所が決まると、その場所のものを中心にデータがアップデートされる。上野で展示されているこのバージョンも、昨年イタリアのパレルモで展示されたものに東京大空襲や広島・長崎のより詳細なデータが追加され、上映時間も5時間から6時間に延びた。

「残念ながら、次に展示されるときにはまた新たな“データ”が追加されていることでしょう」と作者は言う。

駅舎の下には線路があるので、時折電車が通過する音が聞こえる。この駅に電車が停車することはもうないけれど、たくさんの人々が運ばれていくその脇で、時間が新たに積み上げられるようなアートが人々を待っている。

『想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019』

〈旧博物館動物園駅〉
東京都台東区上野公園13-23。10月18日〜11月17日の金曜・土曜・日曜・祝日の全16日間開催。10時〜17時。※(混雑時には)整理券は開催日の朝9時より配布。参加無料。