ART
上野公園の「幻の駅」で見る、歴史が重なったアート。
October 24, 2019 | Art, Architecture, Design | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
2018年にアート・イベントが公開されて話題になった〈旧博物館動物園駅〉。今は使われていない「幻の駅」に、期間限定でアートが帰ってきました。積み重なった歴史を感じさせるインスタレーションです。
上野公園の一角にある〈旧博物館動物園駅〉は京成電鉄の駅。御料地に建てられたためか、小さいけれど重厚な装飾に覆われた荘厳な造りだ。1933年に開業したが戦後は利用者が減り、1997年に営業停止、2004年には廃止となった。その後、鉄道施設としては初の「東京都選定歴史的建造物」に指定されている。
普段、扉は開かれることはないが、現在、11月17日までの開催となる『想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019』展で内部に入ることができる。
普段、扉は開かれることはないが、現在、11月17日までの開催となる『想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019』展で内部に入ることができる。
この展覧会に参加しているのはスペイン出身の2人のアーティストだ。ローマのパンテオンを思わせるドームの下に置かれた、木と竹を組み合わせたオブジェはフェルナンド・サンチェス・カスティーリョの作品《Tutor》(テューター)だ。竹は本物だが、木は折ったリンゴの木から型をとって作ったブロンズ製のもの。
「折れた木は人類の悲劇の象徴でもあります。上野公園は戦時中、シェルターとして使われたと聞きました」(フェルナンド・サンチェス・カスティーリョ)
リンゴの木はアダムとイヴが知恵の実を採った木であり、ニュートンが万有引力を発見したとも伝えられる。特に西洋においては、人間精神のターニングポイントを象徴する木でもあるのだ。一方で竹は東洋において特に重用される木であり、身近な道具や建物に多用されている。生命ある竹と無機物であるブロンズの木、西洋と東洋、折れた木とそれを支えるかに見える竹、さまざまな要素が絡まり合う。
リンゴの木はアダムとイヴが知恵の実を採った木であり、ニュートンが万有引力を発見したとも伝えられる。特に西洋においては、人間精神のターニングポイントを象徴する木でもあるのだ。一方で竹は東洋において特に重用される木であり、身近な道具や建物に多用されている。生命ある竹と無機物であるブロンズの木、西洋と東洋、折れた木とそれを支えるかに見える竹、さまざまな要素が絡まり合う。
階段の下、3面のスクリーンに投影されているのはクリスティーナ・ルカスの《終わりえぬ閃光》という映像作品だ。彼女は専門家の協力も得て世界中のビッグ・データや資料をリサーチし、世界各地の空爆の歴史を可視化した。1911年に世界初の空爆が行われて以来、最新のものまでが網羅され、空爆の日付や場所、犠牲になった民間人の数や記録写真がスクリーンに表示される。
「およそ100年の空爆の歴史をたどっていくと、テクノロジーの進化には驚かされます。最初のうちはモノクロームの写真が多かったけれど、後半にはカラー写真が大半になる。爆撃自体の技術も進んで、ドローンなどが活用されるようになってきました。最近のものはまるでビデオ・ゲームのようでリアリティが感じられないかもしれないけれど、地上で生身の人々が犠牲になっていることには変わりありません」(クリスティーナ・ルカス)
この作品は展示される場所が決まると、その場所のものを中心にデータがアップデートされる。上野で展示されているこのバージョンも、昨年イタリアのパレルモで展示されたものに東京大空襲や広島・長崎のより詳細なデータが追加され、上映時間も5時間から6時間に延びた。
「残念ながら、次に展示されるときにはまた新たな“データ”が追加されていることでしょう」と作者は言う。
駅舎の下には線路があるので、時折電車が通過する音が聞こえる。この駅に電車が停車することはもうないけれど、たくさんの人々が運ばれていくその脇で、時間が新たに積み上げられるようなアートが人々を待っている。
「およそ100年の空爆の歴史をたどっていくと、テクノロジーの進化には驚かされます。最初のうちはモノクロームの写真が多かったけれど、後半にはカラー写真が大半になる。爆撃自体の技術も進んで、ドローンなどが活用されるようになってきました。最近のものはまるでビデオ・ゲームのようでリアリティが感じられないかもしれないけれど、地上で生身の人々が犠牲になっていることには変わりありません」(クリスティーナ・ルカス)
この作品は展示される場所が決まると、その場所のものを中心にデータがアップデートされる。上野で展示されているこのバージョンも、昨年イタリアのパレルモで展示されたものに東京大空襲や広島・長崎のより詳細なデータが追加され、上映時間も5時間から6時間に延びた。
「残念ながら、次に展示されるときにはまた新たな“データ”が追加されていることでしょう」と作者は言う。
駅舎の下には線路があるので、時折電車が通過する音が聞こえる。この駅に電車が停車することはもうないけれど、たくさんの人々が運ばれていくその脇で、時間が新たに積み上げられるようなアートが人々を待っている。
『想起の力で未来を:メタル・サイレンス2019』
〈旧博物館動物園駅〉
東京都台東区上野公園13-23。10月18日〜11月17日の金曜・土曜・日曜・祝日の全16日間開催。10時〜17時。※(混雑時には)整理券は開催日の朝9時より配布。参加無料。