初作品集を刊行!〈新素材研究所〉結成13年の歩みを杉本博司、榊田倫之に聞きました。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

初作品集を刊行!〈新素材研究所〉結成13年の歩みを杉本博司、榊田倫之に聞きました。

今年で設立から13年目を迎えた新素材研究所。現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之による異色の建築事務所は、代表作の〈江之浦測候所〉をはじめとする数多くの作品を世に送り出してきた。この3月には初の作品集となる『Old Is New 新素材研究所の仕事』を刊行。ふたりにこれまでの歩みと今後について聞いてみた。

杉本博司の東京のアトリエでの杉本(左)と榊田倫之(右)。中央は数理模型をもとにした杉本の立体作品。
「IZU PHOTO MUSEUM」(2009)の現場にて。2007年。既存の個人美術館を写真専門の美術館に改修した。courtesy of New Material Research Laboratory
―杉本さんは新素材研究所を創設する前から直島の〈護王神社〉の再建プロジェクトや展覧会の空間構成など、建築に接近した活動を現代美術の領域で行なっていました。そこから建築家との共働事務所の設立に至ったのはなぜですか?

杉本 直接のきっかけは、小田原の〈江之浦測候所〉のプロジェクトです。さまざまな施設を建設するにはパートナーの建築家が必要で、古くからの友人の岸和郎さんに相談しました。そこで岸さんから弟子の榊田君を紹介されました。

榊田 岸先生が小田原の土地を見にいくときに、僕がカバン持ちで同行しました。その後、先生から連絡があって、「お手伝いしなさい」と。たまたま近くに、何でも言うことを聞く若いのがいた、ということだと思います(笑)。

―杉本さんはいろいろな有名建築家が設計した美術館で個展を開き、建築家の空間を展示する立場から経験してきました。新素材研究所は美術館やギャラリーを数多く手がけていますが、そうした経験が何らかの影響を与えているのですか?

杉本 この美術館は素晴らしいなと思ったのは、ズントーの〈ブレゲンツ美術館〉。それ以外は、だいたいどこも展示がやりにくかった。建築家にとっては、美術館であっても自分が設計した空間が美しいことがいちばん重要なんです。本心では、そこにアート作品があるのは嫌だと思っている(笑)。

―では、新素材研究所の場合は、どういう展示空間を目指しているのですか?

杉本 たとえ二流の作品でも一流に見えるような空間を作るのが新素研です(笑)。
小田原文化財団〈江之浦測候所〉の中心的施設「夏至光遥拝100メートルギャラリー」©Hiroshi Sugimoto / Sugimoto Studio
2009年に竣工した〈Izu Photo Museum〉は事務所設立から間もない頃の作品。©Hiroshi Sugimoto / Sugimoto Studio
2014年にヴェネチアで公開された〈硝子の茶室『聞鳥庵』〉©Hiroshi Sugimoto / Sugimoto Studio
―現在の事務所の体制は?

榊田 スタッフは9人で、99パーセントは地味な仕事です。設計事務所となると、役所への対応とか予算や納期の検討といった業務もあるわけで、杉本が「つまらないな」と思うような仕事はだいたい全部僕らがやっています(笑)。

―杉本さんの役割はクリエイティブな面が中心ということですか?

榊田 いちばん大事なのは構想を出してもらうこと。杉本からの指示はスケッチみたいな簡単なイメージのときもあるし、模型や図面のときもあります。

杉本 今はコロナ禍でずっと日本にいますが、以前は1年の半分以上はニューヨークでした。ある程度は任せておいて、あとでチェックしてました。現場では、すごく気になるところもあれば、ぜんぜん気にならないところもある。例えば桟の格子のピッチや面取りの角度はとても重要です。図面に描いたものをそのまま作っても間が抜けたものになってしまう。微妙な緊張感を出すには、どうしても自分の目で確認しなくては駄目なんです。

―新素材研究所のいちばんの特色は、日本古来の素材や技法を研究し、現代的に再解釈するところですね。

榊田 僕は岸先生のところで建築を学んだので、骨格にあるのは近代建築。いっぽう新素研はまず素材ありきで、そこから建築をどう作っていくかというアプローチです。つまり両者はまったくの別物です。だから最初は見よう見まねで、杉本が材料を買いに行くところについていって勉強しました。

杉本 古い木材でも、廃材屋では材木1本が数千円で、古美術商が扱う天平古材は100万円。見た目はほとんど同じです。その中間もあって、例えば床柱なら、刈り取った稲を天日干しするのに使われていた栗材で80年ぐらい前のものが2、3万円で手に入ります。

榊田 でもそれが100万円と言われれば、ああそうかと(笑)。

杉本 重要なのは古材にあらわれた時間の経過の差で、経験を積めばそれを見極めることができる。普通の建築家は興味を持たないが、新素研ではそこがとても重要になります。
〈MOA美術館〉(2017)。既存の美術館を全面的に改修。展示室には黒漆喰の壁を配し、展示ケースのガラスへの映り込みを最小限に抑えるなどの工夫が施されている。
〈ゲストハウス『和心』〉(2019)。柱を細くし、宙に浮かんだような屋根を実現。数寄屋大工の伝統的な技法と現代建築の手法の巧みな融合。©Hiroshi Sugimoto / Sugimoto Studio
サンフランシスコで計画中の〈ポイント・オブ・インフィニティ〉 Point of infinity, Yerba Buena Island ©︎New Material Research Laboratory
―独創的な茶室の設計にも力を入れていますね。

榊田 杉本と一緒に茶室を設計して思ったのは、やはり茶室は自分が数寄者でないとできない。本当の意味で茶室を作るには、まだまだ年齢的にも経験不足ですね。

杉本 それには一芸を身につけるのが大事です。例えば堀口捨己なら短歌、吉田五十八なら長唄と、それぞれが一芸の持ち主であり、数寄者だったわけです。今の建築家は無趣味道楽だから無理でしょう(笑)。

―その意味では、理解のある施主の存在も大きいですね。

杉本 本音を言えば、人様のお金で実験をさせてもらいたい(笑)。

榊田 施主が新素研のやり方、素材や工法へのこだわりを理解し、望んでいるという実感はすごくありますね。新素研の方法論は特殊ですが、施主も一緒になってそれを共有できている。

―これからの目標は?

杉本 私は数寄者の道を極めます。最近は作陶や書もやっているし、茶杓作りにも凝っています。この前、国宝の〈待庵〉の修復工事があって、屋根の杮葺の廃材が出た。今はその板を削って茶杓を作っています。つまり国宝の茶杓というわけ(笑)。

榊田 これまでは内装の仕事が多かったのですが、今後は実際に建物を建てるプロジェクトの比重を高めていきたい。僕個人としては、杉本と組んで13年目ですが、今はとことん付き合おうという気持ちですね。建築家は40代で若手と言われる世界なので、今はようやくスタートラインに立ったという感じです。

杉本 大丈夫。あと10年ぐらいしたら、今の巨匠はみんないなくなるんだから(笑)。

『Old Is New 新素材研究所の仕事』

これまでの活動を集成した400ページの大著。豊富な写真と図版、作品紹介に加え、インタビューや用語解説なども充実。英語版もスイスのLars Müller社から同時刊行。平凡社刊。8000円。

新素材研究所

しんそざいけんきゅうじょ 現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之が2008年に設立。主な作品に〈MOA美術館〉(2017)、〈江之浦測候所〉(2017)、〈ゲストハウス『和心』〉(2019)などがある。https://shinsoken.jp/
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