レム・コールハースの展覧会は“この時”を予見していた!?|吉田実香のNY通信 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

レム・コールハースの展覧会は“この時”を予見していた!?|吉田実香のNY通信

建築家、レム・コールハースが2月、グッゲンハイムを舞台に生み出した展覧会のテーマは “カントリーサイド”。都市を考察し続けてきた彼が選んだこのテーマは世界からの来館者に衝撃をもたらし、NYの大きな話題となった。だが開幕からわずか3週間で休館。振り返れば、今の私たちに深く突き刺さるレムからのメッセージが、会場内にあふれている。

最上階からグラウンドフロアを見おろす。床に散らばるオブジェのビジュアルは、古代ローマの饗宴で海老や木の実の殻など、そのまま足元に投げ捨てた貴族の習慣に倣ったもの。
エントランスに足を踏み入れると、床にはさまざまなオブジェやイメージのビジュアルが。上を見れば、円柱がカラフルなコラージュで覆われているかと思うと、宙には海底探索機や干し草の塊が浮かんでいる。……干し草? 

〈グッゲンハイム美術館〉を丸ごと使った『カントリーサイド、ザ・フューチャー』は、レム・コールハースが満を持して世に問う展覧会だ。ここにはOMAの建築はひとつも出てこない。そもそも建築展ではなく、アート展でもない。OMAのシンクタンクであるAMO、そして多くのコラボレーターと共に世界中を訪れて取材し、リサーチと研究を重ねた集大成を美術館での展示という形で表現する。〈グッゲンハイム美術館〉に一切美術品が置かれない展覧会というのは、同館史上これが初という。
〈グッゲンハイム美術館〉の空間をくまなく使った『カントリーサイド、ザ・フューチャー』展。

●カントリーサイドとは?

テーマは“カントリーサイド”。郊外や田舎、砂漠や山岳、氷河に海洋など”都市”以外の土地を指す。コールハースはこう語った。

「国連発表によれば、地球のわずか2%ほどの面積でしかない都市部に実に人類の50%が集中しており、2050年には70%にまで到達するという。私たちは長年、都市にばかり目を向けてきた。が、いま最もラジカルで柔軟な進化を劇に遂げている残りの98%、つまり”カントリーサイド”にこそ、未来の方向性が読み取れるのではないだろうか?」
ハッとふりむくと、背後でこんなロボットが回遊中。
干し草(左上)が螺旋の間を浮遊する。
現代の”カントリーサイド”は”のどかな田舎”ではない、と説く。都市部よりはるかに柔軟に、かつ敏捷に変貌を遂げつつある”カントリーサイド”を、レムたちは政治や科学、テクノロジーそして哲学といったさまざまな切り口で考現学的に解き明かす。

〈グッゲンハイム美術館〉と聞けば、誰でも思い出すのが螺旋状の構造だ。通常ならまず最上階まで登り、スロープを下りながらアート鑑賞をする。ところが『カントリーサイド』では、1階が出発点。階ごとに分類されたいわば「章」を追いながら、6階まで登らねばならない。1階のハイ・ギャラリーでは壁一面、牛の絵と共にびっしりと文字が埋め尽くす。見ると「牛はどこへ消えたのか?」「いつ消えてしまったのか?」で始まる問いかけのセンテンスだ。実に1,000本近く書いてあり、その横には世界地図が。本展に登場する国と、その国の民主化レベルをグラフィックで示してある。
ハイ・ギャラリー。右の壁に1,000の問いかけ、左には本展に登場する国々の指標マップが。
イントロダクションに続き、2階へ。ここでは創作の源であり、文化を育んできた余暇の場としての”カントリーサイド”を、古今東西の例を挙げて紹介する。中国の田園詩人・陶淵明や、古代ローマの”オティウム”(思索にふける余暇)。王妃マリー・アントワネットは離宮プチ・トリアノンで農婦のコスプレをしては、ガーデニングや乳搾りの真似事にハマったと伝えられる。当時の貴婦人たちの間で”農婦ルック”ブームが起きたというから、自然回帰志向が西欧リッチ層のステータスなのは今も昔も変わらない。

近年では1960年代後半からのヒッピー文化、はては今や4.5兆ドル産業と言われるグローバル・ウェルネス産業へとつながっていく。グローバル・ウェルネスの中でも、注目はツーリズム。つまりアフリカの砂漠やアラスカの高山、または海中など、地球の長い歴史において、人類が足を踏み入れる事すら想像すらできなかった辺境の野生の中で高級リゾートを楽しみ、スリルに満ちたアクティビティに酔いしれる現代人の姿がここにある。
カントリーへの憧れは万国共通だ。柱には「カントリーロード」などカントリーの名曲の各国カバーをディスプレイ。日本からは70年代アイドルグループ、キャンディーズがカバーした「ジョリーン」のジャケットも。
3階では20世紀のソビエト連邦を始めとする、政権や国家の理想のために変容させられた”カントリーサイド”が語られる。4階に広がるのは、新たな取り組みの実験場としての”カントリーサイド”の数々だ。中国、アフリカ、ヨーロッパ。5階では地球の環境破壊と保護活動をテキストやビジュアルで示していく。
自動走行ロボットに乗って、会場内を動き回るスターリン。
昔から、カントリーサイドは政治上の重要な道具でもあった。
自然破壊の危機にある土地を買い上げ、環境保全を目指すスーパー富裕層への言及も。

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