城崎温泉に生まれた、新たな食と文化の拠点〈さんぽう西村屋〉。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

城崎温泉に生まれた、新たな食と文化の拠点〈さんぽう西村屋〉。

老舗旅館〈西村屋〉による初のダイニング〈さんぽう西村屋 本店〉が誕生。松葉蟹や但馬牛など豊かな土地の食材を提供するほか、ギャラリー機能なども備え、城崎の新たな魅力を広く発信していく拠点となる。

創業150余年〈西村屋〉と隣接して誕生した〈さんぽう西村屋 本店〉。松井亮建築都市設計事務所の松井亮がクリエイティブディレクション・設計を手がけた。
スリット状に設けられた開口部が道行く温泉客の興味を引く。いっぱいに設けられた軒によって広い軒下空間が生まれ、ひとびとの交流を呼ぶ。
〈西村屋 本館〉との間には、火と浄化を司る三宝荒神様を祀る〈三柱神社〉につづく参道が。店舗に加え、こちらも松井の設計によって整備された。
創業150余年〈西村屋〉と隣接して誕生した〈さんぽう西村屋 本店〉。松井亮建築都市設計事務所の松井亮がクリエイティブディレクション・設計を手がけた。
スリット状に設けられた開口部が道行く温泉客の興味を引く。いっぱいに設けられた軒によって広い軒下空間が生まれ、ひとびとの交流を呼ぶ。
〈西村屋 本館〉との間には、火と浄化を司る三宝荒神様を祀る〈三柱神社〉につづく参道が。店舗に加え、こちらも松井の設計によって整備された。
志賀直哉『城の崎にて』の舞台として広く知られる、湯の町・城崎。日本海で揉まれた松葉蟹、神戸牛や松坂牛のルーツたる但馬牛といった豊かな食の文化に加えて、2014年に誕生した〈城崎アートセンター〉を中心にアート・デザインの文脈も加わって、いま一層の注目を集めている。2014年からの5年で40倍に増えた兵庫県豊岡市の観光客のうち、88%もの人々がこの城崎温泉を訪れている。

そんな急速な発展を遂げる街の、食とカルチャーを担う新たな拠点として誕生したのが、この〈さんぽう西村屋 本店〉だ。創業150余年を数える老舗温泉宿〈西村屋〉の伝統を引き継ぐ和のダイニングであるとともに、地域の食材や工芸を活かしたオリジナルギフトを販売するショップ、また湯めぐりする客の休憩所やギャラリー機能などを兼ねたサロンも併設。城崎の歴史を継承しながら、かつ幅広い魅力を国内外に向けてさらに発信していく場になる。
隣接する三柱神社で火と竃の神が祀られていることと関連して、中央に囲炉裏を据えた“火”を中心とした店内。四方を囲むカウンター席からは、調理の様子を眺めることができる。
中央の吹き抜けに対して、店舗奥のテーブル席の上部には船底状の天井が。緩急が生まれることで、より親密な雰囲気が生まれる。
回廊状の2階には、フォトギャラリーや軽食を提供するスナックブッフェ、レターラウンジを併設。外湯巡りの途中の休憩所としても重宝されている。〈西村屋本館〉の宿泊客のほか、一般客も2,200円で利用が可能。
1階「さんぽうギフト」。通りのスリット状の開口部を通して、湯めぐりをする観光客の興味を引く。
隣接する三柱神社で火と竃の神が祀られていることと関連して、中央に囲炉裏を据えた“火”を中心とした店内。四方を囲むカウンター席からは、調理の様子を眺めることができる。
中央の吹き抜けに対して、店舗奥のテーブル席の上部には船底状の天井が。緩急が生まれることで、より親密な雰囲気が生まれる。
回廊状の2階には、フォトギャラリーや軽食を提供するスナックブッフェ、レターラウンジを併設。外湯巡りの途中の休憩所としても重宝されている。〈西村屋本館〉の宿泊客のほか、一般客も2,200円で利用が可能。
1階「さんぽうギフト」。通りのスリット状の開口部を通して、湯めぐりをする観光客の興味を引く。
クリエイティブディレクション・設計を手がけたのは、〈羽田空港第1ビル〉内の〈ヒトシナヤ〉などの店舗設計のほか、〈自由学園みらいかん〉なども手掛ける、〈松井亮建築都市設計事務所〉の松井亮。いまの城崎を、他にはない無二の温泉街たらしめている多彩な文脈を、デザインレベルにまで丁寧に織り込んでいった。たとえば、店内中央に据えられた囲炉裏と煙突を兼ねる大きな行燈は、城崎で長く親しまれる〈三柱神社〉が祀る、火とかまどの神に由来するもの。湯によって発展を遂げてきた城崎の地における、火とその恵みへの特別な思いを象徴するとともに、四方を囲むカウンター席に座る客の目を愉しませる。

また、壁や天井のスリット、二階の床に見られる千鳥格子など、幾何学的な意匠の背景には、フランク・ロイド・ライトの影響がある。この〈さんぽう西村屋 本店〉に隣接する、数寄屋建築を代表する存在である平田雅哉が手がけた〈西村屋本館 別館・平田館〉を訪れてみると、純和風旅館の佇まいでありながら、随所にライトが用いたような造形がちりばめられていることに気がつく。これは、ライトによる〈帝国ホテル 旧本館〉や〈自由学園 明日館〉を見て感銘を受けた平田が、独自の解釈のもとで表現したもの。昭和三十五年より愛されてきた〈平田館〉におけるこうした細部を、〈さんぽう西村屋 本店〉でも、やはり松井独自の表現で継承したかたちだ。また松井は、〈自由学園〉が2017年に東久留米に新設した〈自由学園 みらいかん〉を手がけたという縁もある。

・〈西村屋本館〉別館〈平田館〉。

近代数寄屋建築の巨匠・平田雅哉による、〈西村屋本館〉の別館〈平田館〉。
「観月の間」。天井や欄間などの意匠が目を引く。
こうした廊下などでも、天井、回廊などで用いられる幾何学的な造形が印象的に映える。
近代数寄屋建築の巨匠・平田雅哉による、〈西村屋本館〉の別館〈平田館〉。
「観月の間」。天井や欄間などの意匠が目を引く。
こうした廊下などでも、天井、回廊などで用いられる幾何学的な造形が印象的に映える。
料理は、松葉蟹や但馬牛といった言わずと知れた名産を存分に活かすとともに、澄んだ湧き水によって育まれた土地の野菜、また希少種である赤花蕎麦などを、素材の魅力を活かす繊細な手入れのもと提供。温泉のみならぬ城崎の地の豊かさを、食の面からも実感させられる品々だ。

7つの外湯が点在している城崎は、「駅が玄関/道路が廊下/外湯は大浴場/お宿が客室/お土産物屋が売店/飲食店が食堂」と、全体でひとつの”お宿”というコンセプトでまちづくりを行ってきた。もちろんそれぞれの宿で食事の用意はあるが、こうしたダイニングが生まれることで、二泊、三泊と滞在する旅行客にとっての選択肢にもなる。ベジタリアン向けコースの用意もあり、欧米からが多いという国外からの多様な客の要望にも、街を代表して応えることができる。城崎滞在をより多彩に、豊かにしてくれる待望のダイニングだ。