FOOD
こんな和食店が欲しかった! 南青山〈てのしま〉|寺尾妙子のNEWSなレストラン
August 20, 2018 | Food | casabrutus.com | photo_Kayoko Aoki text_Taeko Terao editor_Rie Nishikawa
味は本格派、雰囲気はほどよくカジュアル。名門〈菊乃井〉から独立した主人による和食店が早くも人気です。
場所は南青山。名料亭〈菊乃井〉本店で副料理長を、赤坂店で料理長を務めた店主、林亮平によるコースは四季折々の日本料理のエッセンスが濃縮されて、1万円。〈てのしま〉は今、東京でもっともコストパフォーマンスの高い和食の一軒だ。
「日本料理の割烹というと敷居の高いイメージをもたれやすいと思うんです。でも、コースの値段を1万円に設定することで敷居を下げ、内装もカジュアルにすることで、東京で和食を食べるときの選択肢を広げたかったんです」(林)。
「日本料理の割烹というと敷居の高いイメージをもたれやすいと思うんです。でも、コースの値段を1万円に設定することで敷居を下げ、内装もカジュアルにすることで、東京で和食を食べるときの選択肢を広げたかったんです」(林)。
林は名門〈菊乃井〉出身。店主、村田吉弘のもとで18年間、腕を磨き、上海の支店や赤坂店で料理長を務めた。グラフィックデザイナーから和食の世界に転身した女将、紗里と夫婦で2018年3月に〈てのしま〉をオープン。内装は「土間のある台所」をテーマに、SUPPOSE DESIFN OFFICEが手がけている。
「店名〈てのしま〉は実家の本家がある、香川県丸亀市に属する小さい島、手島(てしま)から名付けました。そこに僕の実家の本家があって毎年、夏休みに遊びに行っていたこともあり、馴染み深い場所。手島から運んだ土を混ぜて、壁や床、カウンターに塗り込んでもらいました」(林)。
「店名〈てのしま〉は実家の本家がある、香川県丸亀市に属する小さい島、手島(てしま)から名付けました。そこに僕の実家の本家があって毎年、夏休みに遊びに行っていたこともあり、馴染み深い場所。手島から運んだ土を混ぜて、壁や床、カウンターに塗り込んでもらいました」(林)。
前菜から甘味まで9品からなるコースは角がピッと立った、包丁技が冴えるカツオなどのお造りや、一番出汁に瀬戸内産のハモを合わせた煮物椀など、日本料理の真髄に迫る料理プラス、日本各地の素材を用いて「自分たちのフィルターを通して、現代的に表現したもの」で構成され、今なら牛タンカツやステーキ、季節によってイノシシなどのジビエ、肉料理も必ず出る。
コースのなかで、一番〈てのしま〉らしさを感じるのが店名を冠した「てのしま寿司」だ。いなり寿司と棒寿司2種の盛り合わせだが、いなり寿司は中の酢飯に混ぜる具がワサビやタケノコ、キュウリとシラスなど、炊いた魚の棒寿司は穴子やハモなど、酢で締めた棒寿司はサバやアジなど、そのときどきで具が変わるのが楽しい。
お吸い物代わりに登場するにゅうめんもこの店を象徴する一品。すべての料理に一番出汁を使う高級料亭ではほぼ、使われることのない、いりこの出汁がお酒の後の胃に染みる。
これらコースで出る料理は21時以降、アラカルトでも頼める。「鱧とじゅんさいのお椀」1,800円など、懐石料理の華と呼ばれる煮物椀を単品でいただける店もそうはない。「本日のおつくり」2,500円や「おいなりさん(一貫)」350円を軽くつまんで一杯もあり。飲んだ帰りに「いりこだしにゅうめん(一人前)」1,000円をサラッと食べて帰ってもいい。ここは座敷や庭が贅沢な料亭とはまた別次元の、使い勝手が贅沢な日本料理店である。
〈てのしま〉
東京都港区南青山1-3-21 1-55ビル2F TEL 03 6316 2150。18時〜22時LO(アラカルトの注文は21時〜)。日曜(月2回不定休あり、2018年8月7日〜19日休)。コース10,000円、アラカルトは1,000円前後が中心。生ビール700円、日本酒1合900円〜。ワインはグラス900円〜、ボトル3,800円〜。ドリンクペアリング6,000円。
illustration Yoshifumi Takeda
寺尾妙子
てらお たえこ 食ライターとして雑誌やWEBで執筆。好きな食材はごはん、じゃがいも、トリュフ。現在、趣味の茶の湯に邁進中。