古今東西 かしゆか商店【 縄飾り 】 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

古今東西 かしゆか商店【 縄飾り 】

『カーサ ブルータス』2019年1月号より

日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回は清冽な空気漂う宮崎の高千穂郷へ。自ら育てたわらでコツコツと縄を綯ってつくる、縁起のいい縄飾りに出会った。

古事記にもその名が記される神話の里・高千穂郷で、しめ縄や縁起物の縄飾りをつくる〈わら細工 たくぼ〉。3代目の甲斐陽一郎さんによる製作を間近で見て、「縄を綯う所作の美しさに感激しました」と店主かしゆか。
『しめ縄」は新年だけの特別なもの。そう思っていましたが、宮崎県の高千穂郷では、家や商店の玄関や室内に1年中飾られているそうです。今回訪ねたのは、神話の里と呼ばれるこの土地で、60年以上前からしめ縄や縄飾りをつくっている〈わら細工 たくぼ〉。周囲には神社も多く、清らかな空気が流れていることを感じます。
Purchase No. 10【 縄飾り 】  稲わらを綯ってつくる、素朴で美しい『祈りの形』。
「田んぼを耕して米や稲わらを育て、それで縄を綯って縁起のいい飾りをつくる。素朴な手仕事です」

と3代目の甲斐陽一郎さん。わらの青い香りでいっぱいの工房には、酉や亀や梅などを象った縄飾りが掛けられています。わらは2種類あって、青わらは縄飾りのためだけに育てたもの。黄色いわらは、お米を天日干しした後のもの。長く飾り続けると色が抜け、その経年変化も味わい深いそうです。
酉の顔をつくる。
自分たちで食べる分の米を育て、その稲わらを縄飾りに使う。
酉の顔をつくる。
自分たちで食べる分の米を育て、その稲わらを縄飾りに使う。
 この日つくっていただいたのは愛らしい酉の飾り。まずは水でたっぷり湿らせたわらを、手のひらでより合わせながら縄を綯います。シャラシャラ、シャラシャラ……と縄が擦れる音も心地よく、両手をあわせて綯う姿は、祈りを捧げているように見えました。
完成した「祝酉」と対面。「この愛らしい形に、多くの意味と祈りが込められているんですね」。
刈り取った稲を昔ながらの稲架で天日干し。
完成した「祝酉」と対面。「この愛らしい形に、多くの意味と祈りが込められているんですね」。
刈り取った稲を昔ながらの稲架で天日干し。
「普通は右手を外側へ押し出すように綯いますが、僕は右手を手前に引く“左綯い”が好み。これは昔のしめ縄職人のやり方で、自分の元へ幸せを招く形だと聞きました」と甲斐さん。手の動きひとつにも意味があるんですね。
毎年12月は地元のためだけにしめ縄を製作。
固くねじり締めた縄に、竹の道具で飾りを通す。
毎年12月は地元のためだけにしめ縄を製作。
固くねじり締めた縄に、竹の道具で飾りを通す。
そして、綯った縄をさらにねじったり結んだりして酉の形をつくる途中、こんなひとことも。「座って縄を綯っている時間はホッとする」。実はわら細工でいちばん大変なのは田んぼ仕事で、雨が続けば1年分のわらが台無しになることもあるそうです。「自然が相手だと自分の努力ではどうにもできないことが多く、毎日、天に祈る気持ちです。だから、無事収穫できた時はまさに歓喜。そうやってつくったものが誰かの祈りに近いところで飾られていることを、ありがたく感じます」と話してくださいました。今回選んだ「祝酉」も、手とわらだけでつくられた祈りの形。神話の国で生まれる手仕事の原点です。

縄飾り「祝酉」作/甲斐陽一郎

右/昔から神の使いとして大切にされてきた酉の飾り。ルーツを大切にした形と、今の空気に合う佇まいを備えている。32×20cm 3,200円。左/祝亀(小)20×12cm 2,400円。わら細工たくぼ/2月~7月のみ見学可能(要・事前連絡)。

かしゆか

樫野有香(かしゆか) テクノポップユニット、Perfumeのメンバー。アルバム『Future Pop』を掲げた国内ツアーに続き、春には北米・アジアを巡るワールドツアーも。最近の興味は照明。www.perfume-web.jp