古今東西 かしゆか商店【 庖丁 】 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

古今東西 かしゆか商店【 庖丁 】

『カーサ ブルータス』2018年12月号より

日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回は“ものづくりの町”として知られる新潟の燕三条へ。鍛冶職人の心意気を受け継ぐ、手づくりの庖丁と出会った。

江戸時代から鍛冶の町として栄えてきた新潟県三条市で、昭和23年に創業した庖丁メーカー〈タダフサ〉。工場併設のショップで牛刀を見つけ、「シュッとした姿の中に男前な素材の力強さを感じます」と話すかしゆか店主。
「ものづくりの町」と呼ばれる土地は日本各地にありますが、新潟県の燕市と三条市をあわせた燕三条もそのひとつ。この地域だけで工場が4000以上! もあるそうです。中でも色濃く残っているのが、金属を叩いて刃物をつくる“鍛冶”の伝統。今回訪ねた〈タダフサ〉も、昭和23年から手仕事の庖丁をつくり続けています。
Purchase No. 9【 庖丁 】鍛冶職人の伝統を伝える切れ味鋭い鋼の庖丁。
燕三条駅から車で約15分。工場とショップが隣り合う建物内には、創業時からつくっている漁業用庖丁とともに「工房心得」の額が掛けられていました。「三条の鍛冶の技を後世に伝承し、存続させ続ける事」「三条の子供たちの憧れとなるべき仕事にする事」……取材早々、心をギュッと掴まれます。
一丁一丁すべて手づくり。
刃先は何段階にも分けて研ぐ。
一丁一丁すべて手づくり。
刃先は何段階にも分けて研ぐ。
スパッとよく切れて刃こぼれせず、デザインもモダンで使いやすい。だから人気がありすぎてなかなか手に入らない〈タダフサ〉の庖丁ですが、特に海外での評判も高いのが江戸時代の伝統技を継ぐ鋼の庖丁です。
研磨担当はオーストラリアの職人。「若い人や”溶接女子”もいて活気が感じられます」とかしゆか店主。
熱した鋼材を叩く”鍛造”の技。
研磨担当はオーストラリアの職人。「若い人や”溶接女子”もいて活気が感じられます」とかしゆか店主。
熱した鋼材を叩く”鍛造”の技。
「800~900℃に熱した鋼を、熱いうちに叩いて鍛える。この“鍛造”によって、強さと切れ味が生まれるんです」というスタッフのお話を伺いながら、カンカン! ギュイーン! と鋼を打つ音や研磨する音が響き交う工場を見学します。圧巻はやはり、赤く熱した鋼を叩きながら庖丁の形をつくる鍛造の工程。年季の入ったスプリングハンマーを使うのですが、ハンマーを打ち下ろすリズムは足踏みミシンのようにペダルを繰って調節し、刃のカーブも手元の微妙な動きだけでつくるアナログぶり。その一連の動きがカッコよすぎて、目が離せなくなってしまうほどです。
刃を熱して木柄に差し込む”柄入れ”をする会長の曽根忠一郎さん。沸き立つ煙にびっくり。
刃に文字を刻む”作切り”
刃を熱して木柄に差し込む”柄入れ”をする会長の曽根忠一郎さん。沸き立つ煙にびっくり。
刃に文字を刻む”作切り”
ちなみに、工場見学を積極的に受けているのも〈タダフサ〉の特徴。こんなに力強い現場を見たら、皆ファンになってしまいますよね。「いい庖丁とは、よく切れる庖丁」ときっぱり断言する工場の方々。一般的にはオールステンレスの錆びない庖丁も人気ですが、〈タダフサ〉は昔ながらの“鋼の切れ味”を追求しています。「錆びても研ぐことで元の切れ味に戻せる。そうやって長く使える庖丁が理想」と話してくださいました。

鋼という骨太な素材を、人の手で一丁一丁かたちづくっていく、そのカッコよさにほれぼれした今回。買い付けは、刃面を梨のような風合いに加工した「梨地」の牛刀に決めました。海外からも憧れられる、切れ味鋭い名品です。

青紙鋼・梨地洋庖丁 作/タダフサ

左/口金付梨地洋包丁・牛刀(両刃)。刃渡り180mm、全長320mm。9,500円。右/ペティナイフ125mm 8,000円。柄は抗菌炭化木。 タダフサ/新潟県三条市東本成寺27-16 TEL 0256 32 2184。9時~17時。日曜・祝日休。

かしゆか

樫野有香(かしゆか) テクノポップユニット、Perfumeのメンバー。アルバム『Future Pop』を掲げた国内ツアーに続き、春には北米・アジアを巡るワールドツアーも。好きな建築は、西沢立衛の〈豊島美術館〉。www.perfume-web.jp