DESIGN
人を幸せにする照明とは? 光の詩人、インゴ・マウラーが世界に遺してくれたもの。
February 15, 2021 | Design | casabrutus.com | photo_Ingo Maurer GmbH text_Hiroe Tanita editor_Keiko Kusano
「光の詩人」として知られるデザイナー、インゴ・マウラー。彼が2019年にこの世を去って1年と少し経つ中、インゴマウラー社の照明に今あらためて注目が集まっている。その理由のひとつに彼のデザインとLED技術との高い調和性がある。ミュンヘン市内のインゴマウラー社のショールームに、彼の実娘であり現インゴマウラー社代表兼PR担当のクロード・マウラーを訪ね、生前、インゴ・マウラーが照明にかけていた思い、さらにインゴマウラー社のこれからについて話を聞いた。
●『Design or What ?』の意味
誰でも一度見たら忘れられない個性的なデザイン、それがインゴ・マウラーの照明だ。ネーミングもユニークで、どこかポエティックな情緒が漂い親しみを与える。2019年11月からドイツ・ミュンヘンの美術館〈ピナコテーク・デア・モデルネ〉で行われた彼の個展のテーマは『Design or What ?』だった。インゴ・マウラー自身が美術館側と企画を進めていたが、展覧会開催を目前に、彼は逝去した。個展は予定通り開かれ、奇しくも彼が亡くなった命日近くの2020年の10月21日まで会期を延長して行われた。
『Design or What ?』という言葉についてあらためて娘のクロード・マウラーに尋ねると、「父は、デザインに携わるようになってからずっとこの“Design or What ?”を問い続けていました。若い頃、彼の創り出すものはどちらかというとアー ト寄りのものが多かったのですが、その後、デザインとアートの間にあるものを追求していくようになりました。その過程で、ものづくりに対する意識としてデザインなのか、それ以外の何かなのかというのが常にあったのだと思います」 と言う。
『Design or What ?』という言葉についてあらためて娘のクロード・マウラーに尋ねると、「父は、デザインに携わるようになってからずっとこの“Design or What ?”を問い続けていました。若い頃、彼の創り出すものはどちらかというとアー ト寄りのものが多かったのですが、その後、デザインとアートの間にあるものを追求していくようになりました。その過程で、ものづくりに対する意識としてデザインなのか、それ以外の何かなのかというのが常にあったのだと思います」 と言う。
インゴ・マウラーの照明は照明器具として成立するのはもちろんだが、まるで命ある生物のような印象も受ける。呼吸をしながら私たちに何かメッセージを届けようとしているとも感じられるのは、そこに「Design or What ?」というテーマが息づいているからかもしれない。
展覧会では、ブランド創設当時のものから最近までのプロダクト、公共空間、ホテルや商空間など手がけてきた案件の模型も展示されていた。照明とは形だけではなく機能を併せ持ってはじめて空間に生きるものだというメッセージが全ての作品に込められているのだ。インゴ・マウラーの軌跡を振り返るだけでなく、彼が創り出すものを通して場や人々に何を伝えてきたのか、そして何を伝えていけるのかを自身に対して問うているようにも感じられた。
展覧会では、ブランド創設当時のものから最近までのプロダクト、公共空間、ホテルや商空間など手がけてきた案件の模型も展示されていた。照明とは形だけではなく機能を併せ持ってはじめて空間に生きるものだというメッセージが全ての作品に込められているのだ。インゴ・マウラーの軌跡を振り返るだけでなく、彼が創り出すものを通して場や人々に何を伝えてきたのか、そして何を伝えていけるのかを自身に対して問うているようにも感じられた。
●デザインとテクノロジー
彼が亡くなるほんのひと月前。日本では2019年9月11日から、東京の〈松屋銀座ギャラリー1953〉でインゴ・マウラーと交流が深い照明デザイナー・面出薫のディレクションによる『INGO MAURER 詩情とハイテック』展が開催されていた。この展覧会に寄せたインゴ・マウラー自身のメッセージが図録に記載されている。
「光は私たちの気分を良くすることも不快にすることもできる。だから常に光の影響を意識しなさい。光の質はその形よりも大切なのだ。」
インゴ・マウラーの生みだした照明は個性的で奇抜なイメージが強いが、そのどれもが製作・発表された当時の最新技術を採用している。その理由は、照明の進化する技術が光の質とデザイン性を高め、上質な空間をつくることができるからだ。
彼が亡くなるほんのひと月前。日本では2019年9月11日から、東京の〈松屋銀座ギャラリー1953〉でインゴ・マウラーと交流が深い照明デザイナー・面出薫のディレクションによる『INGO MAURER 詩情とハイテック』展が開催されていた。この展覧会に寄せたインゴ・マウラー自身のメッセージが図録に記載されている。
「光は私たちの気分を良くすることも不快にすることもできる。だから常に光の影響を意識しなさい。光の質はその形よりも大切なのだ。」
インゴ・マウラーの生みだした照明は個性的で奇抜なイメージが強いが、そのどれもが製作・発表された当時の最新技術を採用している。その理由は、照明の進化する技術が光の質とデザイン性を高め、上質な空間をつくることができるからだ。
たとえば、1984年発売の《Ya-Ya-Ho》。このシステム照明は、極細の電線を跨ぐように灯具が配されていて、触れたら感電するのではないかと一瞬思ってしまう。発表された当時、変圧器によって100Vから12Vの低電圧に落として使用するハロゲン電球が商業空間で需要を高めていた。この《Ya-Ya-Ho》も12V低電圧の照明器具。なので、間違って電線に触れても、もちろん事故にはつながらず、むしろ視覚的にインパクトがあることで商業空間をはじめ多くの市場からニーズがあった。
スポットライトや天井埋込のダウンライトなど、空間演出のベースとなる機能照明では、低電圧は器具の小型化と電力の高効率を可能にし、集光させて照射物の陰影を際立たせる点が特徴のひとつと言える。その効果を、見事に実現している《Ya-Ya-Ho》は、当時すでに意匠照明(ペンダントライトやフロアライト、シャンデリアなど装飾的な照明)と機能照明の両方を、高い技術を兼ね備えて実証していたことになる。
クロードさんに、デザインとテクノロジーについてどちらを優先しているのかと聞くと「どちらかを、ということではなく、“Combine”(結びつけること) が大切なのです」と答えた。
スポットライトや天井埋込のダウンライトなど、空間演出のベースとなる機能照明では、低電圧は器具の小型化と電力の高効率を可能にし、集光させて照射物の陰影を際立たせる点が特徴のひとつと言える。その効果を、見事に実現している《Ya-Ya-Ho》は、当時すでに意匠照明(ペンダントライトやフロアライト、シャンデリアなど装飾的な照明)と機能照明の両方を、高い技術を兼ね備えて実証していたことになる。
クロードさんに、デザインとテクノロジーについてどちらを優先しているのかと聞くと「どちらかを、ということではなく、“Combine”(結びつけること) が大切なのです」と答えた。
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