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【長崎】多国籍料理の元祖、 “和華蘭(わからん)料理”って?|冷水希三子の郷土料理研究レシピ
October 18, 2023 | Food, Culture, Travel | casasbrutus.com | photo_Kiyoko Eto text_Housekeeper food & styling_Kimiko Hiyamizu cooperation_長崎国際観光コンベンション協会
料理家・冷水希三子が、郷土料理が生まれた場所を訪れ、実際に食べて研究。どこの地域でも作りやすい冷水さん流アレンジレシピを紹介する連載。今回訪れたのは長崎県・長崎市。国際貿易を行ってきた港町としての歴史から日本料理、中華料理、洋食を絶妙に取り入れてきた長崎の料理を学びました。冷水さんのレシピは記事の最後に。立ち寄りスポットも紹介しているので、旅行ガイドとしてもお楽しみください。
⚫︎海に近い街だから生まれた“和華蘭(わからん)料理”。
長崎県の名物といえば、ちゃんぽん、皿うどん、トルコライス……。和食なのか洋食なのか、または中華なのか? と迷ってしまうが、実はそれで正しい。江戸時代には唯一の幕府公認国際貿易港を持つ大きな港町として発展してきた長崎は、衣食住に異文化を取り入れてきた。そんな長崎で生まれた伝統料理は、“和華蘭(わからん)料理”とも称される。ユニークな名前は、和食、中華、洋食の要素が互いに混じっていることからつけられた。
今回、長崎の郷土料理を教えてくれたのは料理研究家の脇山順子さん。長崎の食文化を研究し、長崎女子短期大学でも教鞭をとっていたという。
冷水さんが希望したのは、「ハトシ」「ヒカド」「浦上そぼろ」「長崎天ぷら」の4品。あえて聞いたことのないメニューを選んだ冷水さんは、脇山さんが教えてくれた長崎の郷土料理の歴史にわくわくと耳を傾けた。
冷水さんが希望したのは、「ハトシ」「ヒカド」「浦上そぼろ」「長崎天ぷら」の4品。あえて聞いたことのないメニューを選んだ冷水さんは、脇山さんが教えてくれた長崎の郷土料理の歴史にわくわくと耳を傾けた。
まず脇山さんが作ってくれたのは「浦上そぼろ」。鎖国前、ポルトガルの宣教師が浦上地区の人たちに伝えたと言われる料理で、語源はポルトガル語で余り物を意味する「ソブラード」だという。手近にある野菜に豚肉を加えた炒め物だが、ここに砂糖が登場する。「長崎の人は、なんにでもお砂糖を入れると言われているんです」と笑う脇山さん。聞けば、昔は物資を船で運ぶとき船底に砂糖を入れて安定を図ったことから、長崎に広く砂糖が流通したのだという。「砂糖が薄いと、『今日は長崎が遠かー』なんて言ったりしますね(笑)」
一口食べた冷水さんは「思ったより砂糖! という感じではなく、優しい甘みになっていますね。今でも給食によく出るというのも納得。お子さんが絶対好きな味なので、気負わず栄養をとってほしいときにぴったりだと思います」。
一口食べた冷水さんは「思ったより砂糖! という感じではなく、優しい甘みになっていますね。今でも給食によく出るというのも納得。お子さんが絶対好きな味なので、気負わず栄養をとってほしいときにぴったりだと思います」。
2品目の「ヒカド」はポルトガル語の「ピカド」が語源。物を細かく切るという意味だそう。近海で獲れる白身魚をメインに、細かく刻んだ鶏肉や根菜と一緒に煮込む。ユニークなのは、擦りおろしたさつまいもでとろみをつけること。戦時中貴重な炭水化物だったさつまいもでとろみと甘みを加えたこの一品は、「さつまいも汁粉」と呼ばれ、その後長崎を訪れたヨーロッパ人も「和風シチュー」と喜んだという。
「次は揚げ物にいきましょう」と言う脇山さん。香ばしい匂いと共に登場したのが「ハトシ」だ。ハトシは「蝦吐司」と書き、「蝦」は中国語でエビ、「吐司」はトーストを表す。エビのすり身をパンに挟んで揚げる、スナック感覚で食べられる料理だ。
元々は江戸時代末期から明治時代の頃、清国(現代の福建省)から伝わったとされるが、手間がかかる上に、新鮮なエビが大量に手に入り「エビの踊り食い」文化もある長崎では根付かなかった。その後、大正時代に長崎のコース料理「卓袱料理」の一品に取り入れられた。「今ではお祭りのときの屋台料理として若い方に人気なんですよ」という脇山さん。冷水さんは「これは老若男女誰もが好きな味! エビのぷりぷりのすり身とサクサクの揚げトーストが絶妙なバランスで、禁断の味ですね」。
元々は江戸時代末期から明治時代の頃、清国(現代の福建省)から伝わったとされるが、手間がかかる上に、新鮮なエビが大量に手に入り「エビの踊り食い」文化もある長崎では根付かなかった。その後、大正時代に長崎のコース料理「卓袱料理」の一品に取り入れられた。「今ではお祭りのときの屋台料理として若い方に人気なんですよ」という脇山さん。冷水さんは「これは老若男女誰もが好きな味! エビのぷりぷりのすり身とサクサクの揚げトーストが絶妙なバランスで、禁断の味ですね」。
最後に作ってくれたのは「長崎天ぷら」。天ぷらはもともと南蛮料理で、「味をつける」「調理をする」という意味のポルトガル語が語源。江戸前の天ぷらと違うのは、衣にもともと味がついていること。醤油や酒、そしてまた登場するのが砂糖だ。衣は少し薄茶色で、余ったらそのまま揚げてもお菓子のようでおいしいという。「天つゆや塩で食べないのが新鮮。何か異国の料理を思い出すような……」と冷水さん。
語源からも分かる通り、ポルトガルや中国から伝来されたレシピが日本人向けにアレンジされ、そのまま長崎の郷土に根付いたのがこれらの料理。異国のものを恐れずおおらかに受け止め、新しいことをおもしろがれる、そんな長崎の人々の気質が生きているのがこの“和華蘭料理”なのかもしれない。
語源からも分かる通り、ポルトガルや中国から伝来されたレシピが日本人向けにアレンジされ、そのまま長崎の郷土に根付いたのがこれらの料理。異国のものを恐れずおおらかに受け止め、新しいことをおもしろがれる、そんな長崎の人々の気質が生きているのがこの“和華蘭料理”なのかもしれない。
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illustration Yoshifumi Takeda
冷水希三子
ひやみず きみこ 雑誌、書籍、広告などで料理制作、レシピ提案を行うほか、ホテルやカフェなどのメニューディレクション、フードコーディネートも。著書に『さっと煮サラダ』(グラフィック社)など。
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