DESIGN
Apple Watch Hermès|屋久島で交差する革新と伝統。
『カーサ ブルータス』2019年2月号より
January 11, 2019 | Design | photo_©Hermès─Carol Sachs text_Kunichi Nomura
デザインと設計を一新した《アップルウォッチ エルメス》。そのローンチを祝した場所として選ばれたのは世界遺産の屋久島。世界に類を見ない森の中で両社が語りたかったこととは。
《アップル ウォッチ エルメス シリーズ4》のローンチを祝したイベント「PULSE Of SENSES」。その招待状に書かれた会場は世界遺産の屋久島だった。「なぜ屋久島?」「屋久島には神社や博物館があるのかい?」。集合場所の羽田空港では、到着したばかりの世界中のエディターや編集長たちがそんな会話を繰り広げていた。
鹿児島空港からレシプロ機に乗り換え、噴煙の上がる桜島上空を飛び、昭和を感じる小さな飛行場に降り立つと、そこから2日間の宿となるサンカラを目指す。ロビーの奥に広がるプールと、その先に見える海に沈む夕陽を眺めながら、島の空気に流れる濃密な緑と生き物の気配を体に吸い込むうちに、この場所が特別なものであると参加者も気づき始めたことが、その表情からも見て取れる。夜の晩餐は太鼓とチェロの伴奏によってスタートした。空港でエルメスのフランス本社スタッフが発した「伝統とテクノロジーが交差する場所、だから世界中から日本に皆さんを招待したんです」という言葉が蘇る。
翌朝、バスに乗り込み海岸線を目指す。そこはわずか17kmの距離で山から湧き出した、日本随一の透明度を誇る水が川として海に流れ込む場所。その美味しい水を飲みながら、フランスの脳科学者アントワン・ルッツから瞑想のレクチャーを受ける。自然の中での瞑想がいかに科学的に脳に良い影響を与えるか、どう頭の中を無にするか、そして感情に支配されずに毎日のタスクを新たな気持ちで集中するかを学ぶ。《アップルウォッチ》が健康科学へと深い関心を寄せ、そのセンサーを活かす方針は、我々の生活をより良く導く。この科学者の言葉は、《アップルウォッチ》の未来をどこよりもわかりやすく解説したものだった。
鹿児島空港からレシプロ機に乗り換え、噴煙の上がる桜島上空を飛び、昭和を感じる小さな飛行場に降り立つと、そこから2日間の宿となるサンカラを目指す。ロビーの奥に広がるプールと、その先に見える海に沈む夕陽を眺めながら、島の空気に流れる濃密な緑と生き物の気配を体に吸い込むうちに、この場所が特別なものであると参加者も気づき始めたことが、その表情からも見て取れる。夜の晩餐は太鼓とチェロの伴奏によってスタートした。空港でエルメスのフランス本社スタッフが発した「伝統とテクノロジーが交差する場所、だから世界中から日本に皆さんを招待したんです」という言葉が蘇る。
翌朝、バスに乗り込み海岸線を目指す。そこはわずか17kmの距離で山から湧き出した、日本随一の透明度を誇る水が川として海に流れ込む場所。その美味しい水を飲みながら、フランスの脳科学者アントワン・ルッツから瞑想のレクチャーを受ける。自然の中での瞑想がいかに科学的に脳に良い影響を与えるか、どう頭の中を無にするか、そして感情に支配されずに毎日のタスクを新たな気持ちで集中するかを学ぶ。《アップルウォッチ》が健康科学へと深い関心を寄せ、そのセンサーを活かす方針は、我々の生活をより良く導く。この科学者の言葉は、《アップルウォッチ》の未来をどこよりもわかりやすく解説したものだった。
再び車に乗り込むと、標高1000mまで登り、野外での昼食会となった。そこで演奏された、無音にしていなければ音色を聞き逃すほどの繊細な古代の楽器の音は、山に満ちる鳥の鳴き声や、風が鳴らす梢の擦れる音と調和していく。このタイミングでアップルのチーフ・デザインオフィサー、ジョニー・アイヴと、エルメスのエグゼクティブ ヴァイス プレジデント、ピエール=アレクシィ・デュマが合流し、屋久杉の森を一緒にトレッキングした。日本有数の雨量を誇る環境と、通常より多い樹脂分により腐敗から身を守ってきた屋久杉で、世界に類を見ない森を築いた屋久島。もはやこの島について疑問を発する者は一人もいなかった。島の空気を吸い、森を眺めることで、両社がなぜこの場を選んだのかを無言のうちに理解したのだ。その具体的な答えは、夜の野外テラスに設けられた美しい晩餐会での二人のスピーチで届けられた。
「私たちが今回のような特別なイベントを開くとき、そこに商品を展示することはありません。そこで皆さんに感じてもらいたいのは、我々のものづくりへの哲学と作り手である人々についてです。すべては人の繋がりなのです。皆さんと集まり、話す場を設けることでそれぞれが物を通してではなく、人として繋がる、それを大事にしているのです。他社とコラボレーションをしないことで有名でもある、まったく異なる製品を作っている2つの会社は、実はきわめて似通った理念やこだわりに基づき、製品を生み出しているのです。デザイン上、非常に細かい部分までこだわるだけでなく、それを使う人へも配慮していくという」
そう語る両社の姿勢が、未来を変えていく技術と伝統を受け継ぐ知識や技法を駆使した、美しいプロダクトとして結晶した。革新と伝統、それぞれの持ち味を活かした《アップルウォッチ エルメス》、その背景を語る場として、世界の中で日本の屋久島が選ばれたのは自然なことだったのだ。