DESIGN
モダンデザインが縄文から学ぶこと。
『カーサ ブルータス』2018年8月号より
July 11, 2018 | Design | a wall newspaper | text_Takahiro Tsuchida editor_Yuka Uchida
映画『縄文にハマる人々』に出演している佐藤卓さんを直撃。どうしてグラフィックデザイナーが縄文時代に惹かれるのか。
1万5000年前に始まり、約1万年も続いた日本の縄文時代。そこには世界的に見てもきわめてユニークな文化が存在した。そんな縄文の魅力を多様な視点で紹介するドキュメンタリー映画『縄文にハマる人々』にデザイナーの佐藤卓さんが登場。デザイン目線の縄文論を語っている。
Q 映画の中で、縄文文化とモダンデザインを対比していますね?
ドイツでバウハウスが開校したのが1919年で、当時からモダンデザインが一気に花開きました。つまりモダンデザインの歴史は100年。それに対して縄文時代は約1万年続きました。これはすごいことですよね。そもそも我々は、デザインとはモダンデザインのことだと思い込んでいます。でも人が工夫して何かを生み出すのは間違いなくデザインであり、それは縄文時代に始まっていたとも言える。日本では縄文時代から定住が始まり、同時にいろんな課題が生まれました。住みやすい場所はどこか、貝殻をどこに集めるか、というふうに。その中で縄文式土器ができて、煮炊きの道具として使われた。土を焼き固めるのは化学反応なので、テクノロジーの発生でもありました。火焔型土器もそこから生まれたわけです。
Q 映画の中で、縄文文化とモダンデザインを対比していますね?
ドイツでバウハウスが開校したのが1919年で、当時からモダンデザインが一気に花開きました。つまりモダンデザインの歴史は100年。それに対して縄文時代は約1万年続きました。これはすごいことですよね。そもそも我々は、デザインとはモダンデザインのことだと思い込んでいます。でも人が工夫して何かを生み出すのは間違いなくデザインであり、それは縄文時代に始まっていたとも言える。日本では縄文時代から定住が始まり、同時にいろんな課題が生まれました。住みやすい場所はどこか、貝殻をどこに集めるか、というふうに。その中で縄文式土器ができて、煮炊きの道具として使われた。土を焼き固めるのは化学反応なので、テクノロジーの発生でもありました。火焔型土器もそこから生まれたわけです。
Q 佐藤さんにとって火焔型土器の魅力とは何でしょう?
火焔型土器はあくまで日常の道具でした。普遍的に使いやすいものを作り、機能を進歩させるのがモダンデザインの大前提。不安定で使いにくい火焔型土器は、それを覆す存在なんですよ。こんな造形ができる技があり、数千年も作り続けたんだから、使いやすいものを縄文人が作れないはずはない。ではこの形は何なのか。今の人から見るとすごい装飾なんだけど、彼らにとっては意匠でなく構造そのものだったんじゃないかな。モダンデザインが行き詰まりつつある現在、このまったく違うベクトルのほうに豊かさを感じます。
Q たとえば1980年代に流行したポストモダンも、機能にとらわれない造形を主張しました。
ポストモダンは、モダンに対しての「ポスト(次)」であって、それによってデザインの本質は変わりませんでした。モダンデザインをベースとする表層的なものになっていたと思います。それに対して縄文は、人工物と自然が一体で、生命の輪廻や宇宙のサイクルも構造に取り込んでいるかのよう。現代社会に暮らす我々に見えないものが彼らには見えていたはずで、ワクワクさせられます。
Q 映画の中では土偶「縄文の女神」も絶賛していますね。
土偶の造形はものすごく豊か。「縄文の女神」は、モダンデザインとしても通用するシャープでエッジの効いた形です。縄文人は昆虫などいろんな自然の形態を観 察 し、造形に生かしたのでしょうね。一方で「縄文のビーナス」と呼ばれる土偶もあって、こちらはふくよかな丸みを帯びています。1万年の歴史の中で、彼らはあらゆる立体造形を試行錯誤した。形の表現は、この時代に出尽くしていたのかもしれません。
火焔型土器はあくまで日常の道具でした。普遍的に使いやすいものを作り、機能を進歩させるのがモダンデザインの大前提。不安定で使いにくい火焔型土器は、それを覆す存在なんですよ。こんな造形ができる技があり、数千年も作り続けたんだから、使いやすいものを縄文人が作れないはずはない。ではこの形は何なのか。今の人から見るとすごい装飾なんだけど、彼らにとっては意匠でなく構造そのものだったんじゃないかな。モダンデザインが行き詰まりつつある現在、このまったく違うベクトルのほうに豊かさを感じます。
Q たとえば1980年代に流行したポストモダンも、機能にとらわれない造形を主張しました。
ポストモダンは、モダンに対しての「ポスト(次)」であって、それによってデザインの本質は変わりませんでした。モダンデザインをベースとする表層的なものになっていたと思います。それに対して縄文は、人工物と自然が一体で、生命の輪廻や宇宙のサイクルも構造に取り込んでいるかのよう。現代社会に暮らす我々に見えないものが彼らには見えていたはずで、ワクワクさせられます。
Q 映画の中では土偶「縄文の女神」も絶賛していますね。
土偶の造形はものすごく豊か。「縄文の女神」は、モダンデザインとしても通用するシャープでエッジの効いた形です。縄文人は昆虫などいろんな自然の形態を観 察 し、造形に生かしたのでしょうね。一方で「縄文のビーナス」と呼ばれる土偶もあって、こちらはふくよかな丸みを帯びています。1万年の歴史の中で、彼らはあらゆる立体造形を試行錯誤した。形の表現は、この時代に出尽くしていたのかもしれません。
Q 縄文文化は、これからのデザインに影響を与えますか?
現代社会ではすべてに意味が必要とされ、デザインも言葉で説得することが求められます。その中で感覚的に反応し、動くことを忘れがちになるけれど、縄文はそれを思い出させてくれるし、意識を開放してくれます。縄文人は言葉以前の状態で世界を感じていたはず。僕もアイデアを思いつく瞬間は「あ!」と思うけど、そこに言葉はありません。1万年続いた縄文は、以前は停滞の時代と扱われたそうです。しかし、ひとつの時代を継続させるヒントが縄文にありそうだと考えられるようになった。彼らは千年単位で物事を“完成させない”生き方をしたんです。あるプロジェクトを個人で完結させようとするのは現代病かもしれません。縄文が教えてくれることは本当にたくさんあります。
現代社会ではすべてに意味が必要とされ、デザインも言葉で説得することが求められます。その中で感覚的に反応し、動くことを忘れがちになるけれど、縄文はそれを思い出させてくれるし、意識を開放してくれます。縄文人は言葉以前の状態で世界を感じていたはず。僕もアイデアを思いつく瞬間は「あ!」と思うけど、そこに言葉はありません。1万年続いた縄文は、以前は停滞の時代と扱われたそうです。しかし、ひとつの時代を継続させるヒントが縄文にありそうだと考えられるようになった。彼らは千年単位で物事を“完成させない”生き方をしたんです。あるプロジェクトを個人で完結させようとするのは現代病かもしれません。縄文が教えてくれることは本当にたくさんあります。
『縄文にハマる人々』
監督は『死なない子供、荒川修作』も撮った山岡信貴。出演:小林達雄、いとうせいこう、佐藤卓ほか。渋谷イメージフォーラムにて上映中。他、順次全国公開予定。©三内丸山遺跡
佐藤卓
さとうたく 東京生まれ。東京芸術大学大学院修了後、電通を経て1984年に独立。グラフィックデザイナーとしてパッケージなどを手がけるほか、ブランディングや展覧会の監修など多方面で活躍。2017年より21_21 DESIGN SIGHT館長。