DESIGN
布に宿る記憶を次に繋ぐ。韓国の縫製作家チェ・ヒジュの展示が東京・白金の〈YAECA HOME STORE〉で開催中。
| Design | casabrutus.com | text_Yoshinao Yamada
韓国の伝統的な天然繊維を使い、自然にインスピレーションを受けたオブジェや生活のための小物などを製作する縫製作家、崔希朱(チェ・ヒジュ)。拠点のソウルと日本を往来しながら制作活動を続ける崔の展示が、東京・白金のライフスタイルショップ〈YAECA HOME STORE〉にて4月27日まで開催されている。
崔の作品は、日々出会う花、実、木などの自然物、そして祖母と母の時代から受け継いだ貴重な生地で表現される。その布はたとえば夏の韓服に使われるモシ(麻のなかでもイラクサ科のカラムシを使った高級な布で、軽く、中が透けて見えるほどに薄い)など、主に祖母や母親から受け継いだものを使う。
今回のために製作された《毎日が満月》は、崔の母が60年間使い続けた大切な綿布団を使ったという。離れて暮らすものの、同じ月を見上げる母への想いを込めて制作された。その繊細な作品は、彼女が母を想う気持ちのようにものを慈しむ気持ちをわかせるものだろう。
同じように、韓国の伝統文化や風習をモチーフにした作品も多い。韓国には、新しい家や店を構えると玄関先に干したミョンテ(タラ)を吊すことで悪い運気を追い払うという風習があるという。崔がその風習を現代的に解釈した作品が《モシミョンテ》だ。
同じように、韓国の伝統文化や風習をモチーフにした作品も多い。韓国には、新しい家や店を構えると玄関先に干したミョンテ(タラ)を吊すことで悪い運気を追い払うという風習があるという。崔がその風習を現代的に解釈した作品が《モシミョンテ》だ。
「質の良い木綿糸を108回巻いたかせ糸でミョンテを括りました。眺めることで心が落ち着き、笑顔になれますように。毎日が幸せでありますように」と、崔。タラの目で悪い運気を追い払い、きれいに巻いた糸で福が舞い込むことを願って制作したという。こうして自然素材を用いた崔の作品は月日とともに、表情は変化を続ける。
かつて日本にもボロのように先人たちが愛した布を受け継ぐ文化が広くあった。韓国はいまも、ポシャギをはじめとする先人の愛した布を大切にする文化がある。崔は、家族や大切な人から受け継いだ布を使用することで思いを繋ぎ、祈りを続ける作家だ。まずはその繊細な仕事に触れてほしい。
