CULTURE
ミランダ・ジュライの名言「あえて無意味であることを選び、ゆえにその人のすべてが…」【本と名言365】
July 31, 2024 | Culture, Art | casabrutus.com | photo_Yuki Sonoyama text_ Keisuke Kagiwada illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。アート、小説、映画と多様な表現方法を通して、独自の世界観を打ち立てるミランダ・ジュライ。彼女が目指すアートの姿とは?
ミランダ・ジュライは、アーティスト、小説家、映画監督と3足のわらじを履きながら、そのすべてで世界的な評価を得ている、真のマルチタレントだ。では、彼女の多岐に渡る作品を貫くキーワードは何か。答えは、彼女が手掛けたノンフィクション『あなたを選んでくれるもの』の中に綴られている。
2作目の映画『ザ・フューチャー』の脚本執筆で頭を悩ませるミランダの描写から、本書は幕を開ける。ひと組のカップルが、余命わずかの猫を引き取る前の1ヶ月で人生を見直すという物語において、始まりと終わりは決まっているものの、その間をつなぐ展開を思いつけなかったことが、悩みの理由だ。
毎週火曜にポストに投函されるフリーペーパー『ペニーセイバー』に目をつけたのは、そんなある日のこと。彼女はほんの息抜きのつもりで、その〈売ります〉欄に広告を掲載している人々の話を聞こうと思いつく。『あなたを選んでくれるもの』が描くのは、その過程で彼女が出会った、ミランダ・ジュライ映画の登場人物としか思えないような、一風変わっていて、だけど魅力的な人々との記憶だ。そして、紆余曲折の末、これで最後にしようというときに訪ねたのが、81歳のジョーだった。
「クリスマスカードの表紙部分だけ50枚」を1ドルで売りに出すジョーは、結婚して62年目の妻に、母の日、結婚記念日、独立記念日などなど毎年9回、卑猥な詩を綴ったカードを送り続けているという。それを目の当たりにしてミランダは思う。
ひとつひとつの記念日は、うんざりするほど同じことの繰り返しでしかない。しかし、その何ということのない日々は、夫婦の「不確かな記憶で一つにつなぎとめられている。だからこそ、そこに固有の意味も価値もないからこそ、それは奇跡のように美しい」と。
ジョーに『ザ・フューチャー』へ出演してもらうことが、映画を完成させるに足りなかった最後の1ピースだったのだ。なぜなら、彼の人生こそが、彼女の目指す「精緻なラディカルアートそのもの」、「あえて無意味であることを選び、ゆえにその人のすべてが反映されているような、そんなアート」を体現しているのだから。何気ない日常に潜む機微に繊細な眼差しを注ぎ、そこで得た人生の真理を作品に昇華するミランダ・ジュライの、信条告白のような言葉だ。
2作目の映画『ザ・フューチャー』の脚本執筆で頭を悩ませるミランダの描写から、本書は幕を開ける。ひと組のカップルが、余命わずかの猫を引き取る前の1ヶ月で人生を見直すという物語において、始まりと終わりは決まっているものの、その間をつなぐ展開を思いつけなかったことが、悩みの理由だ。
毎週火曜にポストに投函されるフリーペーパー『ペニーセイバー』に目をつけたのは、そんなある日のこと。彼女はほんの息抜きのつもりで、その〈売ります〉欄に広告を掲載している人々の話を聞こうと思いつく。『あなたを選んでくれるもの』が描くのは、その過程で彼女が出会った、ミランダ・ジュライ映画の登場人物としか思えないような、一風変わっていて、だけど魅力的な人々との記憶だ。そして、紆余曲折の末、これで最後にしようというときに訪ねたのが、81歳のジョーだった。
「クリスマスカードの表紙部分だけ50枚」を1ドルで売りに出すジョーは、結婚して62年目の妻に、母の日、結婚記念日、独立記念日などなど毎年9回、卑猥な詩を綴ったカードを送り続けているという。それを目の当たりにしてミランダは思う。
ひとつひとつの記念日は、うんざりするほど同じことの繰り返しでしかない。しかし、その何ということのない日々は、夫婦の「不確かな記憶で一つにつなぎとめられている。だからこそ、そこに固有の意味も価値もないからこそ、それは奇跡のように美しい」と。
ジョーに『ザ・フューチャー』へ出演してもらうことが、映画を完成させるに足りなかった最後の1ピースだったのだ。なぜなら、彼の人生こそが、彼女の目指す「精緻なラディカルアートそのもの」、「あえて無意味であることを選び、ゆえにその人のすべてが反映されているような、そんなアート」を体現しているのだから。何気ない日常に潜む機微に繊細な眼差しを注ぎ、そこで得た人生の真理を作品に昇華するミランダ・ジュライの、信条告白のような言葉だ。
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