CULTURE
【本と名言365】やなせたかし|「正義っていうのは、いったい何か? …」
October 8, 2023 | Culture | casabrutus.com | photo_Miyu Yasuda text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。絵本作家、漫画家、グラフィックデザイナー、イラストレーター、詩人、作詞家、作曲家、舞台美術家、幅広い分野で活躍したやなせたかし。丸くふっくらとした笑顔のアンパンマンに込められた、飢えと正義への思い。
正義っていうのは、いったい何か? ひもじい人を助けることなんです
ある時はアンパンマンの父、そしてある時は雑誌『詩とファンタジー』の編集長、そしてまたある時は謎の作曲家のミッシェル・カマ……。絵本作家、漫画家、グラフィックデザイナー、イラストレーター、詩人、作詞家、作曲家、舞台美術家、幅広い分野で活躍したやなせたかし。やなせが発信する言葉や絵や物語は、世の中の不条理を見据え、状況に絶望しながらも、「愛」と「勇気」と「希望」に満ちている。
やなせの幼少期はあまり明るいものではない。わずか5歳で父を亡くし、小学2年生の時、母が再婚し伯父夫婦に引き取られる。伯父夫婦はたくさんの愛情を注ぐが、彼の心には何ともいえない郷愁と孤独感が宿った。この頃の感傷が、以後の詩作に反映されているのだろう。
デザイナーとして働きながらも漫画を描きたいと投稿をし続け、34歳の時にフリーランスとなる。雑誌や新聞の漫画ルポやインタビュー記事はもちろんのこと、ラジオ番組のシナリオ、舞台美術……。持ち前の好奇心で、やなせはどんな仕事でもホイホイ引き受けた。この時にできた作曲家いずみたくとの縁が名曲「手のひらを太陽に」(61年)を生み出した。
その後、50歳を過ぎてやなせは童話の世界に足を踏み入れる。69年に雑誌『PHP』に連載した連作童話「十二の真珠」の中の一話が、「あんぱんまん」だ。後に書籍化される。最初は「顔を食べさせるなんて残酷」と幼稚園から手紙が来るなど散々な評判であったという。『あんぱんまん』のあとがきには、こんなことが書かれている。
「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行なえませんし、また、私たちが現在、ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、餓えということで、正義の超人はそのためにこそ、たたかわねばならないのです」
戦争で善悪が逆転する出来事に直面し、真の正義について考え抜いた末に出てきたのが、餓えた人に手を差し伸べるのが正義の味方であり、弱さも持ち合わせている新しいヒーロー「あんぱんまん」だったのだ。丸くふっくらとしたフォルム、身近な食べ物を元にしたキャラクターが、子どもたちから絶大な支持を得るようになったのはいうまでもない。
90歳を過ぎても自らのことを“老人の星”、“オイドル(老いたるアイドル)”と呼び、軽快なジョークで笑顔を振りまいた、やなせたかし。3・11後には詩画集『ちいさなてのひらでも』を発表し、「絶望の隣には希望がある」という言葉を胸に、被災地を飛び回った。たくさんの子どもたちから愛されるキャラクターには、やなせが少年時代から抱えてきた郷愁、戦争で経験した正義、飢えといったやなせ自身の経験がすべて詰まっていたのだ。
ある時はアンパンマンの父、そしてある時は雑誌『詩とファンタジー』の編集長、そしてまたある時は謎の作曲家のミッシェル・カマ……。絵本作家、漫画家、グラフィックデザイナー、イラストレーター、詩人、作詞家、作曲家、舞台美術家、幅広い分野で活躍したやなせたかし。やなせが発信する言葉や絵や物語は、世の中の不条理を見据え、状況に絶望しながらも、「愛」と「勇気」と「希望」に満ちている。
やなせの幼少期はあまり明るいものではない。わずか5歳で父を亡くし、小学2年生の時、母が再婚し伯父夫婦に引き取られる。伯父夫婦はたくさんの愛情を注ぐが、彼の心には何ともいえない郷愁と孤独感が宿った。この頃の感傷が、以後の詩作に反映されているのだろう。
デザイナーとして働きながらも漫画を描きたいと投稿をし続け、34歳の時にフリーランスとなる。雑誌や新聞の漫画ルポやインタビュー記事はもちろんのこと、ラジオ番組のシナリオ、舞台美術……。持ち前の好奇心で、やなせはどんな仕事でもホイホイ引き受けた。この時にできた作曲家いずみたくとの縁が名曲「手のひらを太陽に」(61年)を生み出した。
その後、50歳を過ぎてやなせは童話の世界に足を踏み入れる。69年に雑誌『PHP』に連載した連作童話「十二の真珠」の中の一話が、「あんぱんまん」だ。後に書籍化される。最初は「顔を食べさせるなんて残酷」と幼稚園から手紙が来るなど散々な評判であったという。『あんぱんまん』のあとがきには、こんなことが書かれている。
「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行なえませんし、また、私たちが現在、ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、餓えということで、正義の超人はそのためにこそ、たたかわねばならないのです」
戦争で善悪が逆転する出来事に直面し、真の正義について考え抜いた末に出てきたのが、餓えた人に手を差し伸べるのが正義の味方であり、弱さも持ち合わせている新しいヒーロー「あんぱんまん」だったのだ。丸くふっくらとしたフォルム、身近な食べ物を元にしたキャラクターが、子どもたちから絶大な支持を得るようになったのはいうまでもない。
90歳を過ぎても自らのことを“老人の星”、“オイドル(老いたるアイドル)”と呼び、軽快なジョークで笑顔を振りまいた、やなせたかし。3・11後には詩画集『ちいさなてのひらでも』を発表し、「絶望の隣には希望がある」という言葉を胸に、被災地を飛び回った。たくさんの子どもたちから愛されるキャラクターには、やなせが少年時代から抱えてきた郷愁、戦争で経験した正義、飢えといったやなせ自身の経験がすべて詰まっていたのだ。
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