ART
レアンドロ・エルリッヒの大型個展は見逃すな! |青野尚子の今週末見るべきアート
November 24, 2017 | Art | casabrutus.com | photo_Shin-ichi Yokoyama text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
水の下に服を着た人がいる、〈金沢21世紀美術館〉の不思議なプールで人気のレアンドロ・エルリッヒ。彼の個展が〈森美術館〉でスタートしました。いったいどこからこんなアイデアが湧いてくるの? 見慣れた空間を異次元に変えるマジシャンにその秘密を聞いてみました。
自分の姿が見えない試着室。大勢の人が壁によじ登っている建物。アルゼンチン出身のアーティスト、レアンドロ・エルリッヒの作品にはトリッキーな仕掛けが満載だ。水や鏡、映像などを使って、私たちが当たり前だと思っていること、現実だと信じていることに対して「それってほんとう?」と問いかける。
レアンドロは建築家一家に育った。彼自身は建築を学んではいないけれど、興味はあったという。
「父も兄弟も叔母も建築家だったんだ。そのせいか、建築との関わり方によって、実際の空間が見る人の意識の中では別の空間になり得る、ということに関心を持つようになった。広がりのある場所にいれば開放的な気分になるし、とてつもなく巨大な建物の前では自分がちっぽけな存在に感じる。同じ空間でも見る人の心理状態や文化背景によって違う機能や意味が生まれる。そんなふうに僕たちの心理状態と都市や建築とが互いに影響し合っているのが興味深い」
レアンドロは建築家一家に育った。彼自身は建築を学んではいないけれど、興味はあったという。
「父も兄弟も叔母も建築家だったんだ。そのせいか、建築との関わり方によって、実際の空間が見る人の意識の中では別の空間になり得る、ということに関心を持つようになった。広がりのある場所にいれば開放的な気分になるし、とてつもなく巨大な建物の前では自分がちっぽけな存在に感じる。同じ空間でも見る人の心理状態や文化背景によって違う機能や意味が生まれる。そんなふうに僕たちの心理状態と都市や建築とが互いに影響し合っているのが興味深い」
会場ではそんな人の心理の隙間をついたような作品が並ぶ。最初に展示されているのは、ぷかぷか浮かぶボートのインスタレーション《反射する港》だ。水面にボートの影が反射してゆらゆら揺れるように見えるけれど、実際には水はない。波紋のように見えるのはボートと同じ素材でできたつくりものだ。動いているはずの水が固まったまま揺れている。ここには矛盾した二つの時間が流れている。
「この作品では『時を止める』ことに挑戦している。ボートはよく『人生の旅』にたとえられる。僕たちはときどき、時の流れに逆らって若い頃に戻りたいと思う。もちろんそんなことは不可能だ。ないはずの水に浮かぶボートはそんな物語も内包している」
「この作品では『時を止める』ことに挑戦している。ボートはよく『人生の旅』にたとえられる。僕たちはときどき、時の流れに逆らって若い頃に戻りたいと思う。もちろんそんなことは不可能だ。ないはずの水に浮かぶボートはそんな物語も内包している」
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illustration Yoshifumi Takeda
青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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