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モネの描いた光を驚くべき超絶技巧で再現した、ダニエル・ブラッシュの展覧会。
February 28, 2024 | Art, Design, Fashion | PR | photo_Masaki Ogawa text_Mari Matsubara
〈ヴァン クリーフ&アーペル〉が支援するレコール ジュエリーと宝飾芸術の学校によって、アメリカ人のアーティスト、ダニエル・ブラッシュの展覧会が〈21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3〉で開催されています。
一塊の土くれのような、掌に収まるスチールに驚くほど細かい彫金を施し、部分的にゴールドを象嵌で貼り付けた《山》というタイトルのオブジェ。ゴツゴツとした岩山を想像させる造形には小さな蝶々が止まっており、それもまた金属で作られ、まるで生きているように翅の模様まで克明に表現されている。
《無限のリング》では、時計の文字盤などに使われるギヨシェ彫りでアルミニウムに無数の線が刻まれ、極小のダイヤモンドが信じられないほどの緻密さでセッティングされている。こうした卓越した技による金工作品で鑑賞者を驚かせるのはアメリカ人アーティスト、ダニエル・ブラッシュだ。
彼は素材の詩人であり、金工家であると同時に彫刻家・画家でもあり、世界の文明や歴史に通じ、不可知への探究心にあふれた哲学者でもあった。惜しくも2022年に亡くなった偉大な錬金術師へのオマージュを捧げる展覧会が、レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校の主催で香港に続き東京で開催されている。妻のオリヴィア・ブラッシュに話を聞いた。
「ダニエルは13歳の時にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でエトルリアの粒金細工に魅了され、自分も時代を超越した巧みなものを作りたいと思いました。20代の頃は大学で教鞭をとりながら絵画作品に取り組んでいたのですが、極細の線が一本一本ひと息で描かれ、いくつかの線は交差してほとんどモワレや絹の感触を思わせる印象を生んでいます。それは日本の能楽からインスピレーションを得ていました。肉体酷使と大変な精神集中を必要とする絵画制作の気分転換に始めたのが金細工だったのです。彼は全くの独学で技術を習得しました。粒金のテクニックは他人から伝授されるものではなく、時間をかけて自分自身で探究すべきだと考えたのです」
《無限のリング》では、時計の文字盤などに使われるギヨシェ彫りでアルミニウムに無数の線が刻まれ、極小のダイヤモンドが信じられないほどの緻密さでセッティングされている。こうした卓越した技による金工作品で鑑賞者を驚かせるのはアメリカ人アーティスト、ダニエル・ブラッシュだ。
彼は素材の詩人であり、金工家であると同時に彫刻家・画家でもあり、世界の文明や歴史に通じ、不可知への探究心にあふれた哲学者でもあった。惜しくも2022年に亡くなった偉大な錬金術師へのオマージュを捧げる展覧会が、レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校の主催で香港に続き東京で開催されている。妻のオリヴィア・ブラッシュに話を聞いた。
「ダニエルは13歳の時にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でエトルリアの粒金細工に魅了され、自分も時代を超越した巧みなものを作りたいと思いました。20代の頃は大学で教鞭をとりながら絵画作品に取り組んでいたのですが、極細の線が一本一本ひと息で描かれ、いくつかの線は交差してほとんどモワレや絹の感触を思わせる印象を生んでいます。それは日本の能楽からインスピレーションを得ていました。肉体酷使と大変な精神集中を必要とする絵画制作の気分転換に始めたのが金細工だったのです。彼は全くの独学で技術を習得しました。粒金のテクニックは他人から伝授されるものではなく、時間をかけて自分自身で探究すべきだと考えたのです」
ブラッシュはジュエリーも手がけたが、いわゆる一般的な宝飾品という考え方に疑問を持っていた。
「たとえば宝飾の世界ではアルミやスチールといった素材は見向きもされなかったのですが、彼は素材に価値のヒエラルキーを与えることにアンチテーゼを唱えました。平凡で素っ気ない金属を、極めて高度な技能によってまばゆい光を放つ芸術作品へと昇華させることに情熱を燃やしたのです」
ブラッシュはエトルリア、インド、日本など異文化に学び、森羅万象をメタルワークで作品化した。金属から魔法のように光と色彩を引き出す表現の集大成とも言えるのが、本展の白眉である連作《モネについて考える》だ。
「ダニエルは当初、モネの油彩画に光を感じませんでした。しかし、モネの絵を写した8×10のカラー透明フィルムを窓にかざした時、そこにはじめてモネの絵の色と光の両方を見ました。モネが暮らしたジヴェルニーの麦畑や積みわらを照らす神々しい自然光を表現するために、方形のスチールに一本一本極細の線を刻み込んでいきました。彫金の線の深さや角度を微妙に変えながら、製作中はどのような結果になるかわからないまま彫り進みます。彼は前もっての作り手の意図や計画、デザインを嫌っていましたから」
「たとえば宝飾の世界ではアルミやスチールといった素材は見向きもされなかったのですが、彼は素材に価値のヒエラルキーを与えることにアンチテーゼを唱えました。平凡で素っ気ない金属を、極めて高度な技能によってまばゆい光を放つ芸術作品へと昇華させることに情熱を燃やしたのです」
ブラッシュはエトルリア、インド、日本など異文化に学び、森羅万象をメタルワークで作品化した。金属から魔法のように光と色彩を引き出す表現の集大成とも言えるのが、本展の白眉である連作《モネについて考える》だ。
「ダニエルは当初、モネの油彩画に光を感じませんでした。しかし、モネの絵を写した8×10のカラー透明フィルムを窓にかざした時、そこにはじめてモネの絵の色と光の両方を見ました。モネが暮らしたジヴェルニーの麦畑や積みわらを照らす神々しい自然光を表現するために、方形のスチールに一本一本極細の線を刻み込んでいきました。彫金の線の深さや角度を微妙に変えながら、製作中はどのような結果になるかわからないまま彫り進みます。彼は前もっての作り手の意図や計画、デザインを嫌っていましたから」
展示ケースに一列に並べられた65点の作品は、鑑賞者の視線が移動するごとに劇的に変化する。朝焼けの甘美なピンク色からカワセミの羽の青緑色、夕暮れのラベンダー色や光輝く麦畑の黄金色が次々と現れ、空気の揺らぎまでも感じさせる。何百、何千もの彫り筋が刻まれた、わずか数センチ角の小さな金属片が光を屈折させ、驚くべき効果で私たちを魅了する。
「ダニエルは、作品のスケールは物理的な大きさとは関係ないと考えていました。ものの価値が大きさに比例するという西欧の思想に疑問を持ち、たとえ小さなサイズの作品であっても、時代を超越した力を持ち、巨大なスケールを携えると信じていました。《モネについて考える》は、絵画作品とまったく同じ向き合い方で制作されています。つまり、ダニエルの声、息遣い、鼓動がそのまま記録されたものなのです」
ブラッシュの作品の緻密さと、息をのむような光と色彩の効果をぜひ会場で見届けてほしい。
「ダニエルは、作品のスケールは物理的な大きさとは関係ないと考えていました。ものの価値が大きさに比例するという西欧の思想に疑問を持ち、たとえ小さなサイズの作品であっても、時代を超越した力を持ち、巨大なスケールを携えると信じていました。《モネについて考える》は、絵画作品とまったく同じ向き合い方で制作されています。つまり、ダニエルの声、息遣い、鼓動がそのまま記録されたものなのです」
ブラッシュの作品の緻密さと、息をのむような光と色彩の効果をぜひ会場で見届けてほしい。
ダニエル・ブラッシュ展 モネをめぐる金工芸 DANIEL BRUSH THINKING ABOUT MONET
〈21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3〉東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン。10時~19時。3月11日休。〜2024年4月15日まで。入場無料(予約不要)。問い合わせ・レコール事務局TEL0120・50・2895。※3月20日(水・祝)にイベント「ダニエル・ブラッシュ展と能楽を楽しむ」を14時・16時・18時から各20分開催。予約不要。
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