ART
猪熊弦一郎が愛した“壁”が写真集になりました。
February 2, 2017 | Art, Culture | casabrutus.com | text_Ai Sakamoto editor_Keiko Kusano
「いのくまさん」の愛称で、多くの人に親しまれた画家・猪熊弦一郎。初となる写真集が、今年1月発売された。その被写体は、壁。ありふれた光景の中に、画家が見たものとは?
70年に及ぶ画業の中で、数多くの作品を残した猪熊弦一郎。時代を追ってそれらを見ていくと、同じ画家が描いたものとは思えないほど作風が異なっている。中でも、大きな転機となったのが、1955年の渡米。ニューヨークに活動拠点を移した猪熊は、それまでの具象画から一変して抽象画を描くように。その後、約20年続いたアメリカ滞在中も作風はどんどん変化を遂げていったという。
初の写真集『ニューヨークの壁』は、1950年代後半〜60年代に、猪熊がニューヨークの街角で撮影した壁の写真を収録。ポップな落書きに目を奪われたと思ったら、剥がれ落ちた塗装の下からレンガが顔を覗かせていたり、おどろおどろしいほど真っ赤に塗られたシャッターがあったり。当時のいのくまさんが何に興味を抱き、何を美しいと思ったのか……それがほんの少しわかるような気がするから不思議だ。実際、60年前後に制作された絵画作品には、これらの壁にインスパイアされたような描写も見られるという。
本書に収録の57点の写真は、写真家・鈴木理策が編集(選別と配列)。猪熊が文字や絵を描き込んだ、35mmカラーポジフィルムのスライドマウントをそのまま活かした書籍デザインはデザイナーの黒田益朗が担当している。画家・猪熊弦一郎の転換期に少なからず影響を与えた壁の存在。興味のある方は、ぜひご一読を。
『ニューヨークの壁』カラー128ページ。2,700円(税込)。700部限定発売。発行は丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。公式サイト
