ART
幾重にも謎が仕掛けられたゲルハルト・リヒターの個展へ|青野尚子の今週末見るべきアート
June 17, 2022 | Art | casabrutus.com | photo_Shin-ichi Yokoyama text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano すべてゲルハルト・リヒター、© Gerhard Richter 2022(07062022)
ピントの合っていない写真のように見える絵、絵の具がランダムに飛び散ったような抽象画、ガラスや鏡によって周囲を映し出す作品。日本の美術館では16年ぶりになるゲルハルト・リヒターの個展は彼が仕掛けた二重、三重の謎に満ちています。
〈東京国立近代美術館〉で開かれている「ゲルハルト・リヒター展」は東京の美術館では初めての個展。リヒターは〈メトロポリタン美術館〉、〈ニューヨーク近代美術館〉、〈テート・モダン〉、〈ポンピドゥー・センター〉など世界を代表するメガ美術館で個展が開かれ、国際展などでも常に大きな注目を集める、現代ドイツを代表するアーティストだ。今回の個展は彼が自身の手元に置いてきた作品を中心に、初期から新作のドローイングまでを含むもの。リヒター自身が展示室の模型を作り、会場構成を吟味している。
ゲルハルト・リヒターは第二次世界大戦前、1932年ドイツ東部のドレスデンで生まれ、今年で90歳になった。戦後、ドイツは東西に分割され、彼が暮らしていたドレスデンはドイツ民主共和国(東ドイツ)となった。そこで美術を学んだリヒターは社会主義リアリスムによる壁画家となる。1959年に当時の西ドイツで開催された「ドクメンタ2」を訪れ、より自由な表現に触れたことがきっかけで1961年春に東ドイツを出国、デュッセルドルフに居を構える。「ベルリンの壁」が建設されたのはその年の夏のことだった。
Loading...
illustration Yoshifumi Takeda
青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
Loading...