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Chim↑Pomの「プロジェクト」は止まらない。森美術館で開催中の『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』レポート。

| Art | casabrutus.com | photo_Keisuke Fukamizu   text_Yoshio Suzuki

不快、不気味、不まじめ、不謹慎、不遜。そういうファーストコンタクトをもたれることもよくある。その誤解はしだいに解かれ、共感され、やがて協働にまでたどり着く。

現代美術の役割は美しくて巧みなものばかりを生み出すことではないとChim↑Pomは活動を続ける。社会問題、世界情勢に介入し、誰にも真似できないやり方を考え、抜群の実行力と体当たりで奮闘してきた。彼らのおかげで日本の現代美術は15年くらい進んだ!?

《スーパーラット ハッピースプリング》(2022)今回の展示のための新作「スーパーラット」。オリジナルは黄色に着彩されるなどあのキャラクターを模しているがこちらは金色。
《スーパーラット ハッピースプリング》(2022)今回の展示のための新作「スーパーラット」。オリジナルは黄色に着彩されるなどあのキャラクターを模しているがこちらは金色。
Chim↑Pom。卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀からなるこのアーティストコレクティヴ(複数名のアーティストが協働する形態)が理解されなかったのにはいくつか理由がある。あまりにも前代未聞だからだ。あるいはいまでも彼らの行動の表面をとらえて、ただのお騒がせ、おふざけ、おちょくり集団と一括する向きもあるだろう。

そもそも簡単に理解されたくないという考えの方がホンネではないのかとも思えてくる。まず、その名前。初めて聞く人を相手には、口に出すのもためらわれるような。しかも、表記の中に上向き矢印が入っていることでの強調。

メジャーなアーティストコレクティヴとしては多めの人数である。作品は自分たちが住む都市の問題から、社会のあり方、国際情勢までも取り上げてテーマにしているその壮大さ。歴史的な課題にも言及するし、襲いかかる震災や事故、パンデミックに対する諸問題をアートというフィールドに引き込んで、真正面から戦っている。その果敢ぶりを担保するのは、誰も思いつかないような独創的なアイディア、類まれな行動力である。
「道」の展示にて、Chim↑Pomのメンバー。左より、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求、エリイ、卯城竜太。撮影:田山達之 画像提供:森美術館(東京)
「道」の展示にて、Chim↑Pomのメンバー。左より、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求、エリイ、卯城竜太。撮影:田山達之 画像提供:森美術館(東京)
簡単には理解されなかったり、ときに誤解されたまま、あるいは時間をかけて理解されたりしながら、意外にも結成17年目を迎えたChim↑Pomは美術館での最大規模の個展を開催中である。
「ヒロシマ」のセクションの展示風景。
「ヒロシマ」のセクションの展示風景。
主催の森美術館館長の片岡真実氏はこう語っている。

「(社会問題や世界情勢、災厄という)問題に正面から向き合い、当事者意識を持ち、さらに見る者にも当事者意識を喚起するようなことをアートを通して行ってきました。体当たりな制作方法、出来上がった作品に対してはときおり、物議を醸したこともありましたけれども本展ではその多様な視点を展覧会の中にも再現するということで展示の工夫がなされています」

さらにこの展覧会を担当した同館シニア・キュレーターの近藤健一氏は「Chim↑Pomは非常に卓越した、誰にも思いつかないようなアイディア、コンセプトをもとにそれを実現するという行動力をもち、ユーモアや皮肉などを混じえ、強いメッセージ力を持っているという点で、日本の美術界の中で独自のポジションを構えています。東日本大震災以降、彼らの国際的な活躍も目覚ましいこと、プロジェクトも大型化して展開していることなどからこの時期に彼らの回顧展をやるというのはまさにベストなタイミングなのではないかと思っています」と語っている。
「都市と公共性」の展示セクション、低い天井、雑多な展示。このカオスこそ都市の素顔である。
「都市と公共性」の展示セクション、低い天井、雑多な展示。このカオスこそ都市の素顔である。
ただし、「回顧展」という位置付けについて、Chim↑Pomメンバーの卯城竜太はこう語る。

「回顧展であることは間違いないけれど、同時にそれがプロジェクトになるようにと思って進めてきました。主にそれは4つの観点から展開されています。一つは《くらいんぐみゅーじあむ》、託児所ですね。あと今回、順路を、普段は必ず左回りなんですけども右からも行けるようにしました。道がぐるっと一周いろんな表情やアスファルトなど続いているように残しております。森美術館は丸いですよね。それをイメージして、終わりのなく始まりもないような丸い道を全体に描いてます。賛否両論がたくさんありましたので、作品の見方もいろんな角度から見えるように、順路とか、人の動きとかをとても自由に作りました。何回来てもいろんな見方をしたら、作品の解釈とか、変わるだろうと思います。もう一つは道。でっかい道をつくりまして、そこでたくさんいろんなプロジェクトを多様な人たちと展開していきたいと考えています。あとは美術館内から排除された作品から美術制度について様々な観点から考える別会場の共同プロジェクトスペースです。この4つがメインですが、これは開始後行われていくので今、始まったばかりというふうに思ってください」
展示のセクションとしては10に分かれており、それに館外の共同プロジェクト・スペースがある。順番に紹介していく。
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