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驚きの変身を遂げたフェルメール作品を見に行こう|青野尚子の今週末見るべきアート
| Art | casabrutus.com | photo_Takuya Neda text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
白い壁だと思っていたところに突如現れたキューピッド。美術史上の大事件を東京で目撃できます。上野の〈東京都美術館〉で開催中の『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』へ急げ!
現存作品は30点あまり、真作かどうかで議論の残る作品もいくつかある。フェルメールはその生涯も含め、謎の多い画家だ。その彼の作品《窓辺で手紙を読む女》に美術史上最大のミステリーが持ち上がった。
1979年のX線調査で、この絵には白い壁の下にキューピッドの画中画があることがわかっており、それは画家自身が消したのだと考えられていた。が、その後の調査でキューピッドの絵はフェルメールの没後、第三者によって塗りつぶされたことが明らかになる。フェルメールはキューピッドを消してはいなかったというのだ。
1979年のX線調査で、この絵には白い壁の下にキューピッドの画中画があることがわかっており、それは画家自身が消したのだと考えられていた。が、その後の調査でキューピッドの絵はフェルメールの没後、第三者によって塗りつぶされたことが明らかになる。フェルメールはキューピッドを消してはいなかったというのだ。
なぜ第三者が塗りつぶしたことがわかったのだろう? 油彩画は画面保護のため最後にニスを塗るのだが、ニスは数十年、数百年と時間が経つと変色し、画面がくすんだ色合いになってしまう。この絵でも2017年、溶媒を用いて古いニスを除去する作業が始まった。
ところがキューピッドの絵があったところと、それ以外のところでは溶媒に対するニスの反応が異なることがわかった。つまり、画中画とそれ以外のところでは違うニスが塗られていることになる。
ところがキューピッドの絵があったところと、それ以外のところでは溶媒に対するニスの反応が異なることがわかった。つまり、画中画とそれ以外のところでは違うニスが塗られていることになる。
さらに画中画のニスの上には汚れがあり、画中画にはひび割れがあることもわかった。また全体のニスを除去したところ、画中画のところだけ、壁の色が濃くなっていた。
これらのことから、次のような推論が成り立つ。
フェルメールが画中画を描いたあと、その上のニスが汚れ、ひび割れし、また全体のニスが変色したそのあとに画中画が塗りつぶされたということだ。画中画を塗りつぶした画家はまわりの変色したニスに合わせて壁の色を濃くしていたのだ。
フェルメールはこの絵を描いてから20年もたたないうちに世を去っているが、わずか10数年でこれだけの変化が起こるものではない。ということは、フェルメールの生前には、キューピッドの絵は塗りつぶされていなかったことになる。
これらのことから、次のような推論が成り立つ。
フェルメールが画中画を描いたあと、その上のニスが汚れ、ひび割れし、また全体のニスが変色したそのあとに画中画が塗りつぶされたということだ。画中画を塗りつぶした画家はまわりの変色したニスに合わせて壁の色を濃くしていたのだ。
フェルメールはこの絵を描いてから20年もたたないうちに世を去っているが、わずか10数年でこれだけの変化が起こるものではない。ということは、フェルメールの生前には、キューピッドの絵は塗りつぶされていなかったことになる。
そこでこの絵を所蔵する〈ドレスデン国立古典絵画館〉では絵をフェルメールが描いた元の状態に戻すべく、作業を始めた。その作業がまた根気のいるものだった。顕微鏡で絵をみながら手術用のメスで上塗りを取り除いていくのだ。オリジナルの絵の具の層を傷つけないように上塗りの層だけを剥がしていくのは並大抵ではない。
2018年2月にすべての上塗りを取り除くことが決まってから2021年初頭に修復が完了するまで約3年の月日がかかった。この絵の大きさは83×64.5センチだが、除去した上塗りの面積はおよそ840平方センチメートルになる。元の絵の約15%の面積だ。
2018年2月にすべての上塗りを取り除くことが決まってから2021年初頭に修復が完了するまで約3年の月日がかかった。この絵の大きさは83×64.5センチだが、除去した上塗りの面積はおよそ840平方センチメートルになる。元の絵の約15%の面積だ。
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青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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