ART
森村泰昌が仕掛ける、コロナ時代の「新しい展示様式」とは?
| Art | casabrutus.com | text_Fumiko Suzuki editor_Rie Nishikawa Keiko Kusano
わたしたちは日々、否応なく「新しい生活様式」に順応することを強いられています。とはいえ、ここで一度立ち止まり、この状況をアートの視点で眺めてみると、いったい何が見えているのか? 森村泰昌の展覧会はわたしたちとコロナの関係を問い直す試みとなっています。
大阪の北加賀屋にある〈モリムラ@ミュージアム〉は、美術家の森村泰昌が自らの作品を展示するために設立した美術館だ。森村が「展覧会の実験室」と位置付けるこの美術館では、毎回ユニークな企画展示が行われている。
今回の「北加賀屋の美術館によってマスクをつけられたモナリザ、さえも」は、4回目の企画展となる。展覧会のタイトルはマルセル・デュシャンの有名な作品《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》を踏まえたもの。展覧会を象徴するイメージはマスクをつけたモナリザである。
今回の「北加賀屋の美術館によってマスクをつけられたモナリザ、さえも」は、4回目の企画展となる。展覧会のタイトルはマルセル・デュシャンの有名な作品《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》を踏まえたもの。展覧会を象徴するイメージはマスクをつけたモナリザである。
マスクをつけたモナリザは、アート作品にコロナ対応を施したことを意味する。もちろん疫学的にはナンセンスだが、それは現在の私たちが置かれた状況をアイロニカルに表現している。
「今回の展覧会では、展示作品にも『感染症対策』としてマスクを着用させ、作品の距離も2メートルあけるようにしています。こうした展示形式で何を見せようかと考えたときに、最初に思い浮かんだのがデュシャンの存在でした。私の作品にもモナリザをモチーフにしたものがいくつもあるので、それらにマスクをつけることにしました」(森村泰昌)
森村は美術史を彩る名画をセルフポートレイト化する写真作品を数多く手がけてきた。今回はその中でもモナリザを素材にしたものを集め、それぞれのマスクには「私は何をすべきかわからない」や「何が間違いなのかわからない」といった、コロナの状況下での人々の内面の声を思わせるメッセージが書き添えられている。
「今回の展覧会では、展示作品にも『感染症対策』としてマスクを着用させ、作品の距離も2メートルあけるようにしています。こうした展示形式で何を見せようかと考えたときに、最初に思い浮かんだのがデュシャンの存在でした。私の作品にもモナリザをモチーフにしたものがいくつもあるので、それらにマスクをつけることにしました」(森村泰昌)
森村は美術史を彩る名画をセルフポートレイト化する写真作品を数多く手がけてきた。今回はその中でもモナリザを素材にしたものを集め、それぞれのマスクには「私は何をすべきかわからない」や「何が間違いなのかわからない」といった、コロナの状況下での人々の内面の声を思わせるメッセージが書き添えられている。
〈距離愛のコース〉と題された「展示室1」には、これらのモナリザに関連した作品のほかに、デッサン用の石膏像をモチーフにした立体作品にフェイスシールドを着装した連作も。いっぽう〈”密”の味コース〉の「展示室2」では女優シリーズやレンブラント、ベラスケスなどをモチーフにした連作を間隔をあけずに「密」な状態で展示する。そのほか新作のビデオ作品も上映されるが、上映スペースのみは立ち入り禁止で、誰も見ることができない展示になるという。
「今世の中で起こっている事態はきわめて深刻な悲劇です。ところがそれにもかかわらず、まるでコメディアスな不条理劇を観ているかのような気分におちいってしまうのは、私ひとりではないはずです」
「今世の中で起こっている事態はきわめて深刻な悲劇です。ところがそれにもかかわらず、まるでコメディアスな不条理劇を観ているかのような気分におちいってしまうのは、私ひとりではないはずです」
つまり森村はこの展覧会を「コメディアスな不条理劇」のように構成したと言えるだろう。ここで見るべきものは、美術史的な引用の遊びやアイロニカルなユーモアだけではない。またコロナがもたらした陰鬱な状況をアートで笑い飛ばす、といった安易なエンターテインメント的発想とも無縁だ。
「今回の展覧会でお見せしたいのは、コロナという事態をおもしろおかしくパロディ化することでも、茶化すことでもありません。そうではなく、今世の中で起こっている事態を冷静に見つめなおした時に感じられる”異常性”について、確認しておきたかったということ。今回のテーマは、この一点に尽きるかと思います」
知的なユーモアの装いの下で、森村がこの展覧会に込めた意図はシリアスで重い。美術史をテーマにした森村作品が名画や偉大な画家についての新しい見方をもたらしてくれるのと同じように、この展覧会は今の日本の社会について、鑑賞者がもう一度自問することを求めている。
「今回の展覧会でお見せしたいのは、コロナという事態をおもしろおかしくパロディ化することでも、茶化すことでもありません。そうではなく、今世の中で起こっている事態を冷静に見つめなおした時に感じられる”異常性”について、確認しておきたかったということ。今回のテーマは、この一点に尽きるかと思います」
知的なユーモアの装いの下で、森村がこの展覧会に込めた意図はシリアスで重い。美術史をテーマにした森村作品が名画や偉大な画家についての新しい見方をもたらしてくれるのと同じように、この展覧会は今の日本の社会について、鑑賞者がもう一度自問することを求めている。
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