ART
ニュートンの実験を作品にした杉本博司の新作|鈴木芳雄の「本と展覧会」
July 17, 2020 | Art, Culture | casabrutus.com | text_Yoshio Suzuki editor_Keiko Kusano
〈京都市京セラ美術館〉のリニューアル展示第一弾のひとつ、『杉本博司 瑠璃の浄土』は開催が延期されていたが、ようやくオープンし、府外からの来館者も受け付けるようになった。京都、瑠璃、浄土をキーワードとして組み立てられた展覧会には、精緻な仕上がりの作品群や選びぬかれた古美術品が並ぶ。その根底には、宗教(ここでは仏教)と科学(ここでは近代物理学の礎を築いたニュートンの仕事)という、時に対極と位置づけられる人類の叡智の双方に対する杉本の深慮が見える。ニュートンの「光学」から触発された杉本の新作「OPTICKS」シリーズを取り上げる。
京都市京セラ美術館(京都市美術館)のリニューアルオープンに合わせてはじまった『杉本博司 瑠璃の浄土』。「瑠璃」とは仏教の七宝のひとつでラピスラズリを指す。転じて、濃い青の色名。また、ガラスの古称でもある。「浄土」とは一切の穢れや煩悩のない、仏や菩薩が住むという清らかな土地のことである。西方極楽浄土は阿弥陀如来の、東方浄瑠璃浄土は薬師如来の浄土であるとされる。
京都・岡崎に建つこの美術館での展覧会をオファーされたとき、杉本にはいくつもの思いが巡った。この地で院政を敷いた白河上皇のこと。その時代にあった法勝寺の伽藍に聳えていたという八角九重塔も思い浮かべた。さらに、杉本自身を振り返れば、東京生まれの杉本が、かつて古美術商として、現在は古美術収集家として、しばしば京都を訪れ、数多の古美術の優品に触れた思い出や経験を振り返っただろう。ここでは、この展覧会に新作として発表された「OPTICKS」のシリーズについて、解説する。
京都・岡崎に建つこの美術館での展覧会をオファーされたとき、杉本にはいくつもの思いが巡った。この地で院政を敷いた白河上皇のこと。その時代にあった法勝寺の伽藍に聳えていたという八角九重塔も思い浮かべた。さらに、杉本自身を振り返れば、東京生まれの杉本が、かつて古美術商として、現在は古美術収集家として、しばしば京都を訪れ、数多の古美術の優品に触れた思い出や経験を振り返っただろう。ここでは、この展覧会に新作として発表された「OPTICKS」のシリーズについて、解説する。
「ジオラマ」「劇場」「海景」「ポートレート」「建築」「観念の形」など杉本の写真作品はどれもモノクロームで、静謐をたたえている。しかし、この「OPTICKS」はさまざまな色が使われている。これは何を撮影したものだろうか、何の色なのだろうかと思うかもしれない。しかし、これは何かではなく、光そのものの色を撮っているのである。
「(アイザック・ニュートンが故郷のイギリス東部の)ウールスソープの小さな二階家の窓を閉じて採光の為の穴を穿ち、プリズムを立て太陽光を分光する実験を始めたのだ。この実験によって白色であると思われていた太陽光はプリズムにより赤、黄、青などの屈折率の違う複数の色から構成されていることを発見したのだ。」(杉本博司『アートの起源』新潮社 2012年「冷たい眼と熱い眼」)
「(アイザック・ニュートンが故郷のイギリス東部の)ウールスソープの小さな二階家の窓を閉じて採光の為の穴を穿ち、プリズムを立て太陽光を分光する実験を始めたのだ。この実験によって白色であると思われていた太陽光はプリズムにより赤、黄、青などの屈折率の違う複数の色から構成されていることを発見したのだ。」(杉本博司『アートの起源』新潮社 2012年「冷たい眼と熱い眼」)
1666年にニュートンが作った観測装置を改良した装置を杉本も2004年に東京のアトリエに作った。杉本はそれから毎年、正月前後の日々は毎日朝の5時半に起き、東の空を眺め、晴れると思えば、明けの明星の明るさを見て、大気の透明度を推し量る。
そしてイケるとなれば、ポラロイドカメラをセットする。
そしてイケるとなれば、ポラロイドカメラをセットする。
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illustration Yoshifumi Takeda
鈴木芳雄
すずき よしお 編集者/美術ジャーナリスト。『ブルータス』副編集長時代から「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「若冲を見たか?」など美術特集を多く手がける。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』など。明治学院大学非常勤講師。
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