ヨーゼフ・ボイスとは何者だったのか? | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ヨーゼフ・ボイスとは何者だったのか?

『カーサ ブルータス』2019年4月号より

ボイスに迫るドキュメンタリー映画が完成! 彼は社会に対して、何を訴えていたのか?

ヨーゼフ・ボイス 1921年ドイツ生まれ。20代でシュタイナーに傾倒し、ドローイングなどを描き始める。その後の活動はフルクサス参加、自由国際大学開設、「緑の党」結党など多岐にわたるが、一貫して自由に生きることを訴えた。
20世紀を代表する芸術家、ヨーゼフ・ボイス 。しかし、その作品は難解でとっつきづらいのも事実だ。本人とも交流があり、幾度もボイス展を企画しているワタリウム美術館の和多利恵津子さんに、ドキュメンタリー映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』を通して、ボイス論を語ってもらった。

Q まず、映画の率直な感想を。

アート関係者も初めて目にする映像が多いのではと思います。監督自身が言っているように、関係者の証言で紡ぐのではなく、動くボイス、話すボイスの映像が軸なのもよかった。ボイスは数多くの名言を残したことでも有名ですが、それらを映像を通して本人の声で聞けたことにも感動しました。

Q 具体的に初めて観た映像は?

彼の代表作に『死んだウサギに絵を説明するには』というパフォーマンスがあります。野ウサギの死骸を抱くボイスの写真が有名ですが、この記録映像を観るのは初めて。まさかあんなふうに死んだウサギを動かして、絵に触れさせるパフォーマンスしていたなんて。
映画の中には制作中の姿を捉えた貴重な映像も多い。
パフォーマンス『死んだウサギに絵を説明するには』(1965)。ギャラリーの窓越しに観客が押し寄せる様子も記録されている。
映画の中には制作中の姿を捉えた貴重な映像も多い。
パフォーマンス『死んだウサギに絵を説明するには』(1965)。ギャラリーの窓越しに観客が押し寄せる様子も記録されている。
Q 和多利さんは1984年のボイス来日の際、本人に会われたそうですね。どんな人物でしたか?

東京を歩きながら樹木や植物で街の歴史を知る、まるで植物学者のような方でした。幸運にも制作の場に立ち会いましたが、集中力とエネルギーで時空が変わってしまいそうだったのを今でも覚えています。一方、話しているとジョークやエピソードで笑いを運んでくださる。作中で友人が「信頼のできる常識人」と語っていますが、大きな温かさのある方でした。

Q ボイスといえばフェルトや脂肪を使った彫刻が有名です。

そうですね。彼の経歴の中で、戦時中の墜落事故という重要なエピソードがあります。タタール人に介抱され、一命を取り留めるのですが、その時に体温が下がらないように体に脂肪を塗られ、フェルトで包まれた。このことは伝説のように語られてきましたが、映画の中で、ボイス自身が「それは事実だ」とはっきり話しているシーンがあり、感慨深かったです。
1984年の来日時に収録されたニッカウヰスキーのCM。日本でボイスは一躍有名人に。
黒板には「思考=彫刻」、その下に「自由」の文字。ボイスの一貫した姿勢を示す。
ウォーホルはどう思ってた?  2人はほぼ同世代。片や大衆を虜にして広がるポップアート、片や難解なパフォーマンスや彫刻。だが、あの時代にアートで世界を変えようとした姿勢は似ている。ウォーホルはボイスの顔で多くの作品を残している。
1984年の来日時に収録されたニッカウヰスキーのCM。日本でボイスは一躍有名人に。
黒板には「思考=彫刻」、その下に「自由」の文字。ボイスの一貫した姿勢を示す。
ウォーホルはどう思ってた?  2人はほぼ同世代。片や大衆を虜にして広がるポップアート、片や難解なパフォーマンスや彫刻。だが、あの時代にアートで世界を変えようとした姿勢は似ている。ウォーホルはボイスの顔で多くの作品を残している。
Q ボイスは、芸術概念を拡大し、社会と関わるすべての活動を「社会彫刻」と呼びました。具体的にどんな活動をしたのでしょうか?

日本でボイスが語られる時、政治との関わりを取り上げられることが多く、政党「緑の党」の結成に尽力したことが有名です。ただ、ボイスの活動はそれだけではなく、さまざまな自然保護活動も行い、アートプロジェクトという新しい仕組みを生み出しています。『7000本の樫の木』はその代表的なもので、ドイツのカッセルに7000本の植林をするための資金を7000体の彫刻を販売して集めるという画期的なものでした。

Q 今、ボイスを知る意義は?

ボイスは芸術が社会と関わりを持ち、社会を変化させる役割を持つことを強く訴えた最初のアーティストだったと思います。現代は、テクノロジーや医学が進歩し、生活が飛躍的に便利になりましたが、その分、新たな決まり事やストレスが生まれ、自身の道を自身で選ぶ「自由」を見失っているように感じます。そんな時だからこそ、ボイスが伝えたかったことを考えてみるのはとても大切だと思います。芸術家でない私たちも彼の言葉や物事を変えようとするエネルギーに感じることが多くあるはずです。この映画には、そんなきっかけが刻まれていると思います。

『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』

ドキュメンタリー監督として評価の高いアンドレス・ファイエルの新作。ボイスが動き、話す当時の映像を軸に、関係者への丁寧な取材を交えて構成する。アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にて上映中。ほか順次公開(2017年/107分)。

話してくれた人 和多利恵津子

わたりえつこ 1956年生まれ。母である故・和多利志津子と弟・和多利浩一と共に1990年にワタリウム美術館設立。現在、同館の館長を務める。ボイスの展覧会を数多く企画。