ハルシャさん、チャーミングな絵の裏側にあるものは?

森美術館で開催中の『N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅』の展示は、52階でエレベーターを降りたところの壁面から始まります。柵の向こうにたくさんの人がいるかわいらしいドローイングは、彼が展覧会のオープン前に描いたもの。制作の合間に休憩中のハルシャさんに聞きました。

《ネイションズ(国家)》2007/2017年。足踏み式ミシンを使ったインスタレーション。

インドの現代美術というとどんなのだろう? と身構えてしまうけれど、ハルシャの作品はちょっとマンガ的なところもあって、展覧会のタイトル通りとてもチャーミング。52階のエレベーター脇には柵の向こうにたくさんの人がいてこちらを見ているという壁画が描かれている。よく見るとビジネスマン、お年寄り、宗教家、若い男の子、いろんな人がいる。ハルシャが好きな伊藤若冲の本を持っている人の姿も見える。

52階の壁に描かれた壁画《返される眼差し》2008/2017年。武器を持った人の姿もある。ハルシャはここで2週間ほどかけて制作していた。

「展覧会をすると数人のグループでやってきて、感想を述べあったりしている。そうやって集団の中で何が起きるか、観察するのが好きなんだ。観客は描かれた人を見ると、絵の中の人が自分を見ているのに気づく。見る主体であるはずの観客が見られる対象になるんだ。絵の中の人々は実物大だから、鏡を見ているような気持ちになるかもしれない。観客もまた、鏡の一部になる」

《ここに演説をしに来て》(部分)、2008年。全体で2000人以上の人が描かれている。映画のヒーローや現代美術のスターから普通の人々までが同じプラスチックの椅子に座っている。

視線が行き交うことで、柵の向こうとこちらとの間にある関係性や緊張感が生まれる。これもこの絵の重要なポイントなのだと言う。

「道を歩いていて突然、何人もの人々があなたのことを見つめたらどうなるか、想像してみてほしい。この壁画はそういった状況を作り出しているんだ」

《私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る》1999〜2001年。3枚組のうちの「私たちは来て」の部分。出産し、成長し、死ぬという人の一生を移動し、食べ、寝るという行為で表現する。

壁画には牛や鶏などの動物の姿も描かれている。

「文化や国によって動物の持つ意味は変わってくる。同じ動物がある文化圏では吉兆となり、別の民族は凶兆とみなすこともある。そんなふうに文化によって自然の見方が違うのが面白い。その違いをリスペクトし、互いにコミュニケーションすることが大切だ。違うからといって憎み合う必要はない」