ART
真っ白い絵画、見えない彫刻。ユージーン・スタジオが提示する「想像する力」とは?
February 15, 2022 | Art | casabrutus.com | photo_Kohei Omachi text_Masanobu Matsumoto editor_Jun Ishida
寒川裕人のユージーン・スタジオの展覧会が〈東京都現代美術館〉で開催中だ。会場に並ぶのはコンセプチュアルな絵画、誰も見ることができない彫刻、巨大な海のインスタレーションなど。その見どころを寒川へのインタビューを交えて紹介する。
寒川裕人は1989年生まれのアーティスト。ユージーン・スタジオの名義で創作活動を展開してきた。〈東京都現代美術館〉で開かれている『ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow』展は、絵画から彫刻、映像、インスタレーションと多彩な作品を、旧作新作を交えながら見せる。平成生まれの作家が同館で個展を開くのは、これが初めてだ。
まず会場で来場者を出迎えるのは、真っ白い絵画だ。《ホワイトペインティング》と名付けられたこの作品シリーズは、アメリカやイタリア、メキシコ、スペインなどの街中に白いキャンバスを置き、集まった人々に接吻してもらったもの。ある人は恋人を思い浮かべながら、ある人は祈るように。またある男性は、娘といっしょに唇をキャンバスに──。見えないキスの痕跡が重ねられた真っ白の絵画は、鑑賞者にそのような光景を想像させる。
「想像すること」。それはこの展覧会の大きなキーワードである。実際に《想像 #1 man》と名付けた作品もある。これは完全に真っ暗な空間に、彫刻を置いたインスタレーションで、そこで鑑賞者も見えない像を想像するという体験型作品ともいえる。実際に寒川もこの彫刻を真っ暗な中で制作しており、自身さえその実像を見ていない。またこの先、永遠にその姿を明かすこともないという。この彫刻はすべての人の想像のなかにだけイメージとして存在していくわけだ。
「想像すること」。それはこの展覧会の大きなキーワードである。実際に《想像 #1 man》と名付けた作品もある。これは完全に真っ暗な空間に、彫刻を置いたインスタレーションで、そこで鑑賞者も見えない像を想像するという体験型作品ともいえる。実際に寒川もこの彫刻を真っ暗な中で制作しており、自身さえその実像を見ていない。またこの先、永遠にその姿を明かすこともないという。この彫刻はすべての人の想像のなかにだけイメージとして存在していくわけだ。
もうひとつ象徴的なのが、美術館の吹き抜けスペースに作られた《海庭》だ。展覧会のタイトル『新しい海』を連想させるインスタレーション作品である。
「『新しい海』とは、僕の解釈では『想像の海』のことだと考えています。地球上のすべての海は名付けられていて、平たい意味では新しい海はもうない。つまり、新しい海とは、ここにはなく、想像の中にしかない存在です」(寒川)
寒川はそのうえで、「無限に広がる想像の海、新しい水平線をいろんな人が頭のなかで描けるもの」としてこの作品を作った。
「『新しい海』とは、僕の解釈では『想像の海』のことだと考えています。地球上のすべての海は名付けられていて、平たい意味では新しい海はもうない。つまり、新しい海とは、ここにはなく、想像の中にしかない存在です」(寒川)
寒川はそのうえで、「無限に広がる想像の海、新しい水平線をいろんな人が頭のなかで描けるもの」としてこの作品を作った。
「阪神地区で暮らしていた幼少期に阪神大震災とその復興を見て、大学生のときに3.11を経験しました。特に3.11は、(放射能といった)見えない物質の存在のリアリティに気づき、それと同時にSNSが広まり、見えない人やコミュニティを人々は無意識に想像していったと思います。そしてコロナも含めて、それぞれの問題が顕在化していくことを感じていました。この十数年難しい状況を通して、僕が、僕たちが得られるものがあったとすれば? 見えない力としてそれらを傍観するのではなく、なにか転換できることがあるとすれば? と考え続けて見えてきたのが、『想像する力』でした。もちろん想像の外側があることも含めて。現代やこの先において、明確な言葉、イメージでないものが、ときに大きく広がり、何かを伝える力を発揮する時があると思います」(寒川)
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