イギリスで花を咲かせる、舘林香織のアート|山下めぐみのロンドン通信 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

イギリスで花を咲かせる、舘林香織のアート|山下めぐみのロンドン通信

クリスマス前から続いたコロナ禍のロックダウンが4月12日からようやく緩和になったイギリス。美術館のオープンは5月までお預けながら、ショップと並んで私設の画廊はひと足先にオープンに。ロンドン在住の陶芸アーティスト舘林香織の展覧会「ウォールド・ガーデン」に早速、足を運んだ。

尾形光琳の「燕子花図」へのオマージュ作品の前に立つ、舘林香織。
映画ロケにもしばしば使われる古き良きロンドンを象徴するフィッツロイ・スクエア。舘林香織の展覧会は、新緑が芽吹くスクエアに面した屋敷内にある〈トリステン・ホア・ギャラリー〉で5月7日まで開催中だ。展覧会のタイトルは「ウォールド・ガーデン」。イギリスのガーデンスタイルの一つの壁に囲まれたWalled Garden と、ウォール(壁)に草木を題材にした作品が花咲く、というダブルミーニングになっている。

幅5メートル以上ある壁の一面を覆うカキツバタの群生をはじめ、ダリア、ジギタリス、タチアオイ、クリスマスローズ、そして雑草たち。繊細に構築された陶製の草花が各壁に可憐かつ力強く花咲く。会場には舘林のスタジオも再現され、繊細な作品を制作する作り手の息吹が感じられる展覧会だ。
「モネの絵のようだ」「夜に動き出しそう」などの声も聞かれたカキツバタの大作。
18世紀に建てられた屋敷内の美しいスペースに惚れ込んだことが、この展覧会を開くきっかけになった。左はジギタリス、中央はダリア。
マントルピースの上の作品は舘林が自分の庭で育てたメリアンツス・マイヨール。ビンテージの寝椅子のフレームに蝶々が留まった作品も。
釉薬は使わないことで、繊細なディテールがそのままシャープに表現できる。
舘林香織に話を聞いた。

Q:ロックダウンで約半年延期になりましたが、長らく待った甲斐のある素晴らしい展覧会ですね。

A:ありがとうございます。3年ほど前にクライアントからギャラリストに紹介されたのですが、ギャラリーに入った瞬間にスペースに惚れ込みました。2年前にグループ展に加えてもらい好評だった事もあり、個展もやれますと自分から言ってしまったので、後には引けない感じでがんばることができました。

Q:イギリスならではの美しいスペースと作品が見事にマッチしていますが、壁一面を使ったカキツバタの作品は屏風絵の方な印象です。

A:これは尾形光琳の「燕子花図」へのオマージュです。少し前に中世の静物画にインスパイアされたシリーズを作っていたんですが、植物を題材にするようになってからは、日本の伝統的な美術も意識するようになって。でも、こちらのお客さんには「モネの絵のようだ」とも言われました(笑)。アイリス(カキツバタ)は咲く時期が短く、生花の入手に苦労しました。でも、友人から借り受けた鉢植えのアイリスが、季節外れに奇跡的に咲いてくれて、作品を完成させることができたんです。

Q:ご出身は焼き物の町、佐賀県の有田で、京都育ちということですが。

A:母の実家は有田焼の卸問屋でした。小さい頃には蔵に山積みされた有田焼に埋もれる様にして遊んでいました。陶器市の思い出も沢山あります。私が6歳の時に京都に移住しました。母は清水焼きの絵付師をしていました。そんなわけで焼き物に囲まれて育ちましたが、逆にこの身近な素材を使って、器とは違う形で何か別のことを表現したいと思って来たんです。

Q:京都市立芸術大学で陶芸を勉強されています。

A:美術工芸を専門にする高校でデザインをみっちり学んだのち、京都芸大に進みました。ここの陶芸科は「オブジェ」で知られる〈走泥社〉の系統なので器はもとより、彫刻的な陶芸作品が追求できたのです。
クライアントのガーデンから採取した植物を作品にしたもの。
ホリホック(タチアオイ)、フォックスグローブ(ジギタリス)、ナスタチウム(キンレンカ)、ポピーなど、イングリッシュガーデンではお馴染みの植物たち。
ブランブル(ブラックベリー)はガーデンでは嫌われ者の雑草だが、1年中手に入る優秀なモデル。
Q:ロンドンに来られたきっかけは?

A:1996年に信楽に巡回してきたイギリスの陶芸展を見て、衝撃を受けたのがきっかけです。当時の私は焼き物の仕上げに気に入った手法が見出せず、もがいていました。釉薬で仕上げたテカっとした感じがしっくりこず、何かほかの方法はないだろうかって。イギリスの陶芸家の作品は釉薬使いに重さがなく、重厚な土っぽさもなかったりでびっくりしたんです。こんな仕上げで、こんなにあっさりした焼き物があるんだって。それで、京都芸大の交換留学制度を利用して、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA) に半年間勉強に行きました。

Q:RCAではどんなことを学ばれましたか?

A:板状の土を貼りあわせていく、スラブビルディングという手法などを学ぼうと思っていたのですが、RCAは技術的なことを教えてくれるところではなくって(笑)。でも歴史あるロンドンの街自体の美しさや緑の豊かさ、美術館の質やアートを支援する文化度の高さなどに、大いに刺激を受けました。

Q:2001年にこちらに本格的にベースを移されたのですね。

A:はい、大学院を卒業後はしばらく日本で陶芸を教えたりしていたのですが、やはりロンドンのことが忘れられなくて戻って来ました。でも、異国の地で陶芸家として全くゼロからの出発です。英語もまだ上手ではなかったし、大変でした。クラフトカウンシルからの奨学金などで、2年後にスタジオを構えることができました。

Q:彫刻的な作品のほか、食器類も作られてきました。

A:当初は彫刻より食器の世界の方が入りやすかったので。食器作りは私にとって家業のようなものだし、技術も充分に身に付いていましたから。〈チェルシー・クラフトフェア〉に出展して賞をいただいたりで、出展依頼や注文がたくさん入るようになりました。それで手一杯になりつつあったのですが、やはり「用の美」にとどまらず、もっと自由な表現ができる彫刻作品を作りたかったんです。こちらも並行して続け、数年前から彫刻作品だけに集中できるようになりました。

The Walled Garden | Kaori Tatebayashi | Interview from Tristan Hoare on Vimeo.

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