ART
石塚源太に聞く、異才・辻晉堂の魅力。
『カーサ ブルータス』2020年5月号より
April 20, 2020 | Art, Design | a wall newspaper | text_Mako Yamato editor_Jun Ishida
京都を拠点とする新進の美術家・石塚源太に辻晉堂作品展へ寄せる想いを聞きました。
「ロエベ ファンデーション クラフトプライズ2019」グランプリを受賞した石塚源太。京都を拠点とする彼にとって、前衛陶芸家集団・走泥社(そうでいしゃ)をはじめとする京都の工芸界に大きな影響を与えた現代彫刻家の辻晉堂(つじ しんどう)は、自らの創作のルーツを感じさせる存在だ。〈愛知県陶磁美術館〉を皮切りに巡回展が始まる辻晉堂の作品について、その魅力を聞いた。
Q 辻晉堂に興味を抱く理由は?
大学で選択したのは漆工ですが、工芸科といえども用途性のあるものを作るのではなく、素材の文法を押さえることで作品の可能性が広がることを知りました。では本来、身の回りのものを作る工芸の素材がなぜ作品表現の素材になったのかを紐解き、行き着いたのが走泥社の八木一夫や鈴木治でした。そして気づいたのは、同じ京都で、美術と工芸の境界を越えようとした人たちがいたこと。辻晉堂は京都市立美術専門学校(現・京都市立芸術大学)教授として1949年に入洛し、同僚の八木に陶芸を習い、彫刻家としてどう土を扱うかを実践していきました。そうした境界性を超えて活動した人々の延長線上に、僕自身の活動も成り立っていると思います。
Q 作品に対する印象は?
まず感じたのは不気味さでした。しかし嫌なものではなく、例えば廃墟が独特の魅力を持つように何かがあった痕跡や不在の恐怖と、そこに残っている骨格のようなものの強さが同居している、人の手では作り出せないような不思議な雰囲気を感じました。
大学で選択したのは漆工ですが、工芸科といえども用途性のあるものを作るのではなく、素材の文法を押さえることで作品の可能性が広がることを知りました。では本来、身の回りのものを作る工芸の素材がなぜ作品表現の素材になったのかを紐解き、行き着いたのが走泥社の八木一夫や鈴木治でした。そして気づいたのは、同じ京都で、美術と工芸の境界を越えようとした人たちがいたこと。辻晉堂は京都市立美術専門学校(現・京都市立芸術大学)教授として1949年に入洛し、同僚の八木に陶芸を習い、彫刻家としてどう土を扱うかを実践していきました。そうした境界性を超えて活動した人々の延長線上に、僕自身の活動も成り立っていると思います。
Q 作品に対する印象は?
まず感じたのは不気味さでした。しかし嫌なものではなく、例えば廃墟が独特の魅力を持つように何かがあった痕跡や不在の恐怖と、そこに残っている骨格のようなものの強さが同居している、人の手では作り出せないような不思議な雰囲気を感じました。
Q その独自性はどこから生まれると考えますか?
表面につけられた無数の傷にヒントがあるように思えます。傷=線のリズムはけっして一定ではなく、粘土を削るための線も、放射状に引っ掻いた傷もある。何かを押しつけた跡もある。部分ごとに意識を変えて作品に向き合っていたのだと推察できます。それなのに全体の構造が崩れていないのは、彫刻家としての優れた力量ゆえ。線は作品を破綻させるのではなく、むしろ作品を活かしています。僕自身が扱う漆をはじめ工芸作品の表面とは仕上げを意味します。そこへの意識やイメージを逆算して作品を組み立てる。しかし辻の線への所作からは、表面の仕上げへの意識を感じることはありません。
Q そこが工芸との違いですか?
辻は著書に「私は薄っぺらな板のような形の中に、空間の深まりを表そうと考えたのであった」(『泥古庵雑記』)と記しています。線を施す行為を通して作品が持つ空間を構築し、土という素材を自分のものとしていったのだと思います。そこに陶彫と焼き物の違い、彫刻家としての土へ向き合う姿勢を感じました。
表面につけられた無数の傷にヒントがあるように思えます。傷=線のリズムはけっして一定ではなく、粘土を削るための線も、放射状に引っ掻いた傷もある。何かを押しつけた跡もある。部分ごとに意識を変えて作品に向き合っていたのだと推察できます。それなのに全体の構造が崩れていないのは、彫刻家としての優れた力量ゆえ。線は作品を破綻させるのではなく、むしろ作品を活かしています。僕自身が扱う漆をはじめ工芸作品の表面とは仕上げを意味します。そこへの意識やイメージを逆算して作品を組み立てる。しかし辻の線への所作からは、表面の仕上げへの意識を感じることはありません。
Q そこが工芸との違いですか?
辻は著書に「私は薄っぺらな板のような形の中に、空間の深まりを表そうと考えたのであった」(『泥古庵雑記』)と記しています。線を施す行為を通して作品が持つ空間を構築し、土という素材を自分のものとしていったのだと思います。そこに陶彫と焼き物の違い、彫刻家としての土へ向き合う姿勢を感じました。
『異才 辻晉堂の陶彫』(生誕110周年を記念)
〈愛知県陶磁美術館〉
愛知県瀬戸市南山口町234。 TEL 0561 84 7474。4月11日〜5月31日の会期を予定していたが、現在、臨時休館中。最新情報は公式サイトでご確認を。入館料600円。展覧会では京都時代に焦点を当て、代表的な作品約50点を中心に、版画と素描約20〜25点を展示。2021年3月にかけて鳥取・京都・東京を巡回予定。