ビルで埋め尽くされた大竹伸朗展|青野尚子の今週末見るべきアート | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ビルで埋め尽くされた大竹伸朗展|青野尚子の今週末見るべきアート

平面も立体もモチーフはすべてビル。水戸芸術館現代美術ギャラリーで開かれている大竹伸朗の個展は「ビルしばり」だ。館内を埋め尽くす「ビル」が表現するものとは?

壁面右は《ビルと男》1985年。スケール感が惑わされる。手前の立体は《鉄棒の突き刺さる小屋》1985年。
立体は《鉄棒の突き刺さる小屋》1985年。大竹にとってはこれもまたビルなのだ。
壁面右は《ビルと男》1985年。スケール感が惑わされる。手前の立体は《鉄棒の突き刺さる小屋》1985年。
立体は《鉄棒の突き刺さる小屋》1985年。大竹にとってはこれもまたビルなのだ。
本展のタイトル『ビル景』とは、ビルをモチーフにした作品のこと。展示された作品点数は600点以上。〈熊本市現代美術館〉からの巡回だが、水戸で新作6点を含む100点近くの作品が追加された。大きな四角形の中にたくさんの小さな四角形が描かれたものや、長方形がいくつか描かれたものなど、いかにもビルといった絵もあれば、一見何が描かれているのか判然としないものもある。でも並んでいるものはすべて、ビルを描いたものなのだという。
塔のようなオブジェは水戸で新たに追加された新作《時憶/Bldg.》。「時憶」とは時間と記憶を合成した、大竹の作品シリーズ。この作品は音も出る。「今回は『ビル景』と『時憶』と音を上手く合体させられたのが発見だった」(大竹)。
《Catholicism with Pagan》1986年。住宅なのか教会なのかわからない建物が描かれている。
中央の作品が《窓からのシーメンス・ビル、銅鑼湾》(1980年)。香港で友人の家を泊まり歩いていたとき、窓から見えたビルを描いた。
《Catholicism with Pagan》1986年。住宅なのか教会なのかわからない建物が描かれている。
中央の作品が《窓からのシーメンス・ビル、銅鑼湾》(1980年)。香港で友人の家を泊まり歩いていたとき、窓から見えたビルを描いた。
『ビル景』のもっとも初期の作品は、ロンドンのビルを描いた小さな鉛筆のドローイングだ。大竹は1977年に初めてロンドンに行き、スクラップブックもそこで始めた。78年に一度帰国した彼は79年から香港に通うようになる。日本ではあり得ない密度で高層ビルが密集する街だ。彼はそこでビルを意識するようになる。

「当時の香港は〈啓徳空港〉っていう、世界一着陸が難しいと言われていた空港から入るんだけれど、密集したビルの真上を飛行機が飛んでいく。それを上空から見るだけでもうトリップ状態だった(笑)。混沌の極致で、毎日が驚きの連続で。工事現場の足場は竹だし、洗濯物の干し方ひとつとっても日本とは違う」
《東京─プエルト・リコ》1986年。公益財団法人 福武財団所蔵。2つの街が混ざりあったかのような光景。
展示風景。それぞれプロポーションの違う展示室に合わせて作品が設置されている。
《東京─プエルト・リコ》1986年。公益財団法人 福武財団所蔵。2つの街が混ざりあったかのような光景。
展示風景。それぞれプロポーションの違う展示室に合わせて作品が設置されている。
会場に並ぶ作品の中にはタイトルにロンドン、香港、東京、ニューヨークなど、地名が入ったものも多い。制作年代も展覧会タイトルの通り1978年から2019年まで幅広い。コンセプトやテーマを決めてそれを追求していったわけではなく、いつの間にかビルの作品が続いていた、と彼は言う。

「僕はあまり『意味』とか好きじゃない。意味を知ってしまうことから想像力が削がれる気がする。モノを、初めて見るものとして見たい」
《ソーホー、ニューヨーク III》1983年。ビルのイメージに人やロバが重なり合う。
《ソーホー、ニューヨークIII》部分。ヒトデがコラージュされている。
《ソーホー、ニューヨーク III》1983年。ビルのイメージに人やロバが重なり合う。
《ソーホー、ニューヨークIII》部分。ヒトデがコラージュされている。
若い頃、自分には才能がないと思っていた、と意外なことも口にする。

「30才頃のことなんだけど、それまでアーティストというのはいろんな人のコピーとかを経てひとつのオリジナルなスタイルに行き着く、それが基本だと思っていた。僕もいつか、自分のスタイルに行き着くんだろうと思っていた。ところがいくらやっても自分の中から統一されたものが出てこない。昔からレコード作ったり絵を描いたり、立体も作る。矛盾したものが出てきてばらけちゃう、その繰り返し。でも違うスタイルに共通して出てくるのがビルのシリーズだった。60才を過ぎて気がついたんだけど、40年続いてることはスクラップブックと『ビル景』しかない。『続ける』ものではなくて『続いてっちゃう』ものはあらゆる理屈を超える」
《ビルと飛行機、N.Y. 1》2001年、《ビルと飛行機、N.Y. 2》2001年。。同時多発テロのあと、ニューヨークのビルを描いたもの。
《青いビル 1》2001年、《ビルとハイウェイ、夜》2002年、《浮遊するビルの肖像》2002年。
《ビルと飛行機、N.Y. 1》2001年、《ビルと飛行機、N.Y. 2》2001年。。同時多発テロのあと、ニューヨークのビルを描いたもの。
《青いビル 1》2001年、《ビルとハイウェイ、夜》2002年、《浮遊するビルの肖像》2002年。