儀式から日常まで。真っ直ぐに写したアイヌの今。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

儀式から日常まで。真っ直ぐに写したアイヌの今。

10年間、北海道に通い続け、アイヌの血を引く人々を追ってきた写真家・池田宏。その集大成といえる写真集『AINU』が完成した。

鮭を迎える儀式。美しい民族衣装を纏ったアイヌの人々が集う。(c) Hiroshi Ikeda
漠然と抱いていたアイヌのイメージが、いかに表面的なものだったのかを思い知らされる写真集だ。美しい民族衣装に身を包み、伝統舞踊を舞う姿があったかと思えば、嬉しそうに振袖を着て、成人を祝う若者の姿がある。アイヌの女性が指にシヌイェ(入れ墨)を入れるドラマチックな写真も、海山で働き、酒を酌み交わす、彼らの日常に溶けていく。

写真家の池田宏が北海道に通い始めたのは2008年のこと。アイヌという未知の世界を知りたいという単純な動機だった。

「ですが、続けていく中で徐々に見えてきたのは、北海道におけるアイヌの人たちの境遇や彼らの複雑な思いでした。それと同時に、本州に住む近しい人たちの多くがアイヌに対するステレオタイプなイメージを持っていることにも気づき、そのギャップを少しでも払拭できればという思いで、気づけば10年も北海道へ通っていました」
真っ直ぐにカメラを見据える人々。(c) Hiroshi Ikeda
自らの手にシヌイェ(入れ墨)を入れる女性。(c) Hiroshi Ikeda
シラカバの煤とアオダモの煮汁を使う、伝統的な方法で入れたシヌイェ(入れ墨)。(c) Hiroshi Ikeda
ポートレートの背景にはアイヌの血を引く人々の日常が映し出される。(c) Hiroshi Ikeda
「アイヌの人たちに限らず、人がレンズを見つめる力に惹かれる部分があります」と池田。(c) Hiroshi Ikeda
真っ直ぐにカメラを見据える人々。(c) Hiroshi Ikeda
自らの手にシヌイェ(入れ墨)を入れる女性。(c) Hiroshi Ikeda
シラカバの煤とアオダモの煮汁を使う、伝統的な方法で入れたシヌイェ(入れ墨)。(c) Hiroshi Ikeda
ポートレートの背景にはアイヌの血を引く人々の日常が映し出される。(c) Hiroshi Ikeda
「アイヌの人たちに限らず、人がレンズを見つめる力に惹かれる部分があります」と池田。(c) Hiroshi Ikeda
だが、和人である池田が何の縁もないアイヌの社会に入り込み、彼らにカメラを向けることを許されるのには、相応の時間が必要だった。何も知らぬままに飛び込み、拒絶され、叱られることも多かったという。笑いあったり、ぶつかり合ったりしながら過ごした10年。その中で池田は多くのドラマに遭遇している。

「結婚式に招待してもらったり、親しくなった人の死に直面したり。数々の一喜一憂を共にできたことが、撮影を続ける原動力になったのだと思います。写真集のあとがきにも書いたように、多くの出会いと別れのおまけのように、写真があったような気がします」

この本に収められた生と死は、民族の血を受け継ぐとはどういうことなのかを問いかける。彼らがアイヌの血を引いているならば、自分は一体何者なのか。アイヌの人々の今を通して、ページを捲る自らのアイデンティティについても考えさせられる写真だ。

『AINU』

写真家・池田宏が10年かけて撮り続けた、アイヌの血を引く人々の肖像。巻末には撮影をする中で出会った5人のインタビューも収録。アイヌとして生きることの誇りや葛藤が浮き彫りになる。編集は浅原裕久、デザインは落合慶紀。2900円(リトルモア)。

池田宏

いけだ・ひろし 1981年生まれ。佐賀県小城市出身。大阪外国語大学外国語学部スワヒリ語科卒業後、2006年studio FOBOS入社。09年よりフリーランス。