ARCHITECTURE
孤高の建築家、白井晟一の謎に迫る展覧会|青野尚子の今週末見るべきアート
| Architecture, Design | casabrutus.com | photo_Shin-ichi Yokoyama text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
哲学を学びにドイツに留学し、独学で建築家になり、日本建築らしからぬ石の塊のような建物を作る。白井晟一は近代日本建築の系譜の中でも異色の存在です。謎めいた彼の生涯を追う展覧会に出かけてみましょう。
渋谷区松濤の閑静な住宅街に建つ、決して大きくはないけれど存在感のある〈渋谷区立松濤美術館〉は白井晟一の代表作の一つだ。そびえ立つ石の壁のようなエントランスから中に入ると円窓が印象的なロビーが現れる。「白井晟一 入門」展は建築家が設計した空間でその彼の生涯をたどる、建築に興味のある者にとっては心躍る展覧会だ。
白井には神秘的なイメージがつきまとう。その理由の一つは哲学と建築をめぐる、若い頃の彼の思考のあとがもう一つはっきりしないことだろう。1905年に生まれた彼は19歳で京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)図案科に入学する。ここでの担当教授は建築家、本野精吾、さらに前任者は武田五一だった。彼らが白井の建築への道を開いた可能性はある。しかしその一方で哲学に惹かれていたとの見方もある。
京都高等工芸学校を卒業した彼は、哲学科美術史専攻を第一志望としてドイツのハイデルベルク大学に留学する。留学していた間彼はパリやモスクワなど各地に出かけ、ゴシック建築や古い街並みなどを見て回った。1931年、パリから戻った白井は「ヤスパスやリッカート(ともにドイツの哲学者)には今では興味を感じない」と日記に記した。哲学から離れて別の道をめざした痕が伺える。
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青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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